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相続人のいない財産を特別な関わり合いのあった人に分与する「特別縁故者への財産分与」

だれも相続人がいない人の財産は、最終的には国庫に帰属することになりますが、国庫に帰属させるよりは、故人(被相続人)と特別な関わり合いのあった人に分け与える方がよいという考え方から、民法上、国庫に帰属させる前に特別縁故者を財産分与の対象にすることが認められています。
特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていたり、療養看護に務めたりといった特別な関わり合い(縁故)があった人をいいます。このような縁故関係にある人に対し、相続財産を分与させることができるとし、被相続人の合理的意思や生活実態に応じた解決を図ることができるのです。
ただし、相続人がいないことが確定してからでないと申立てができないことと、所定の手続きに期間制限等の決まりがあることなどに留意が必要です。

相続人のいない財産を特別な関わり合いのあった人に分与する「特別縁故者への財産分与」

目次

1 特別縁故者への財産分与

相続人が不在の場合で、被相続人と一定の縁故関係のある者に対し、相続財産を分与することができる制度を特別縁故者への財産分与といいます。

民法958条の3第1項では、次のように定められています。

「前条(民958の2)の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故がああった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」

これにより、被相続人と生計を同じくしていた内縁の妻や事実上の養子など、相続権がないものの、本来の被相続人の合理的意思や生活実態からすれば財産を与えたであろうと考えられる人に対して、財産を与えることができるのです。

2 特別縁故者とは

相続人が不存在であることが確定した場合において、裁判所が相当と認めるときは。次のような特別縁故者に対し、相続財産の全部又は一部を分与できるとされています(民958の3)。

(1)被相続人と生計を同じくしていた者

例えば、内縁の配偶者、事実上の養子がこれにあたります。その他にも同居の伯父や叔母、子の妻など、家族として共同生活を営んでいた者で、相続権のない者がこれに当たります。

(2)被相続人の療養看護に努めた者

例えば、献身的な世話をした介護者、隣人などがこれに当たります。

(3)その他、被相続人と特別の縁故があった者

例えば、生活資金や事業資金の援助を受けてきた者、事実上、遺産の管理をしてきた者などがこれに含まれると考えられています。単に、親族である、近親者であるというだけでは足りません。

特別縁故が認められた実例

身寄りがなく、知的能力が十分でない被相続人の相続財産(約4,120万円)につき、同人の元雇用主が相続財産分与の審判を求めた事案(大阪高決平31.2.15)があります。
原審(神戸家洲本支決平30.11.21)は、被相続人が脳梗塞を発症してから死亡するまでの約15年間に入院の手続きをする、預貯金の収支を管理する、定期的に見舞う、任意後見受任者となるなど生活支援をし、精神的な支えであることを考慮し、800万円を分与するのが相当と審判しました。
一方、抗告審では、被相続人を雇用していた期間にも着目し、知的能力が十分でなかった被相続人が4,000万円以上も相続財産を形成・維持することができたのは、約28年間にもわたり労働の対価を超えて実質的な援助を含んだ給与を支給してきたことと、及び被相続人を解雇した平成13年以降も緻密な財産管理を継続したためであるとして分与額を約2分の1にあたる2,000万円としています。

被相続人の合理的意思を推測して、遺産を与えたであろうと考えられるに足りる事情が客観的に認められる場合には、「その他、被相続人と特別の縁故があった者」に当たるとされて、その範囲が拡張される傾向にあります。

生前や死後の縁故の程度に応じて、相続財産(1億4,000面円の預金)のうち、被相続人の義理の姪に500万円、義理の従妹に2,500万円を分与した事例(東京家審平24.4.20)では、縁故の内容・程度は比較的薄いと判断しつつ、被相続人が頼りにしていた被相続人の甥の生存中に甥を通じて交流していた点を評価し、甥への遺言を通じて義理の姪に対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向があったと認定しています。

また、被相続人の身の回りの世話をしてきた近隣在中の知人、及び後見人報酬を得ていた4親等の親族成年後見人の特別縁故者性が争われた事例(大阪高決平28.3.2)において、1億2,572万円余の銀行預金等の遺産中各500万円の財産分与が認められています。
従来の裁判例においては特別縁故者性が認められた事案が少なかった、身の回りの世話をした程度の親族以外の者や報酬を得て成年後見等の職務を行ってきた者ですが、被相続人が、後見人らに不動産及び預貯金を分配するよう求める書面を作成した事実を認定し、知人や後見人に財産を遺贈する意思を有していた事情を重視して特別縁故者性を肯定したものと考えられます。

特別縁故が認められなかった実例

一方、被相続人の父方のいとこ、母方のいとこが、被相続人の生前からの交際、葬儀を執り行い法要を継続していく意思があること等から特別受益者に当たると主張した事例(東京高決平27.2.27)においては、申立人と被相続人との関係が直ちに通常の親戚付き合いの範囲を超えるものとは認められないところ、申立人からの主張の裏付け資料が申立人らの陳述書等だけであって、特に親密な交流を裏付ける写真や手紙等の資料が全く提出されていない点を判示して、約9,500万円の財産を分与する特別縁故者と認めませんでした。客観的な資料があったかどうかが判断の分かれ目となっているといえるでえしょう。

2 特別縁故のある「者」

特別縁故者として相続財産の分与を受けられる「者」については、自然人だけではなく、法人(会社、(一般・公益)財団法人、学校法人、宗教法人、地方公共団体など)でもよいと考えられています。
被相続人が入所していた障害者支援施設を運営する社会福祉法人の療養看護が社会福祉法人として通常期待されるサービスの程度を超え、近親者の行う世話に匹敵するとして、特別縁故者に当たるとされた事例(名古屋高金沢支決平28.11.28)があります。

3 縁故関係が存在した時期

過去の一時期に縁故関係が存在した者でも、特別縁故者に当たる場合があります。これに対し、死亡後に縁故関係が生じた場合は、それだけでは特別縁故者には当たらないと考えるのが支配的です。

4 分与の手続

相続財産の分与を受けようとする者は、相続人捜索の公告期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に対し分与の申立てをする必要があります。
そして、家庭裁判所は、特別縁故者に対する相続財産分与の申立てについての審判を、民法958条の期間の満了後3か月を経過した後にしなければならないことが定められています。

5 分与される財産

特別縁故者に対して分与される財産は、「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部」です。
残余財産について、特別縁故者に全部分与するか、一部分与するかは家庭裁判所の裁量に任されています。ただし、実務上は、分与が認められる場合には全部分与であることが多いです。
なお、相続財産の中に共有持ち分がある場合でも、特別縁故者への財産分与は他の共有者へのその共有持ち分の移転を定める民法255条に優先すると考えられています。すなわち、民法255条では、共有者の1人が相続人のないままに死亡した場合、その共有持分が法律上当然に他の共有者に移転するものと定められています。これは相続人が存在せず、国庫に帰属する場合の例外規定であるため、特別縁故者がいる場合はこれが優先すると考えられているのです。

6 特別縁故者への財産分与の注意とリスク

(1)相続財産管理人が選任し、相続人捜索の公告等の手続きを経て、相続人不在が確定氏からでないと申立てができない

民法958条の3第1項では、「前条」すなわち、民法958条の2の場合であることが前提となっています。そこで、あらかじめ相続財産管理人が選任されて、相続人捜索の公告等の手続きを経て、その公告期間内に相続人が現れず、相続人が不存在であることが確定してからでなkでれば、特別縁故者への財産分与を申し立てることはできません。

(2)相続権主張の催告の公告期間完了後3か月以内に申立てを行わなければならない

民法958条の3第2項では、特別縁故者への財産分与の申立てをすることのできる期間について、民法「958条の期間の満了後3か月以内」と定められています。そのため、相続権主張の催告の公告期間の満了前や公告期間中など、申立期間が遵守されていない場合は、申立てが却下されることになります。

(3)縁故の濃さにより、必ずしも特別縁故者と認められない場合がある。

(4)誰が、どれだけ分与されるかは、家庭裁判所の裁量によるため、相続財産の一部についてしか認められない場合がある。

民法958条の3第1項では、「清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる」と定められていますが、特別縁故者への財産分与の定めは、特別縁故者に分与請求権を与えたものではありません。上記規定には「相続財産の全部又は一部を与えることができる。」とあるとおり、誰が、何を、どれだけ分与されるかは、家庭裁判所の裁量によるのです。そのため、相続財産の一部についてしか分与されない場合がありますし、特別縁故者であるが相続財産を分与しないのが適切と考える場合には、家庭裁判所は分与を認めなくてもよいと考えられています。

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