銀行は、口座名義人が認知症になったことを知ると、本人の意思を確認することができないことを理由に、預金の引き出しを拒否する場合があります。そうなると、認知症の配偶者や親をもった家族は、本人の生活費や治療費のためであっても、本人の口座からお金を出すことができなくなってしまいます。
また、障害を持った子がいる場合、資産を残して親が亡くなったとしても、相続人が多く居て必要な分の資産を引き継ぐことができなかったり、資産を引き継いだとしても本人(障害を持った子)は管理することができないことが考えられます。
家族信託では、本人が元気なうちに、自分が認知症等になった場合への備えや、亡くなった後に残された家族の生活のために、信頼できる家族や親族に自分の財産の管理や処分できる権限をあらかじめ与えておくことができます。
次のようなケースでは、家族信託のご利用をお勧めいたします。
所有者が認知症により判断能力が失ってしまうと、不動産の売却や預金の引き出しができなくなることがあります。
家族信託を利用することで、認知症になった後も信頼できる親族等に財産の処分や活用を任せ、認知症になった方の生活療養費を確保することができます。
相続や遺言書により配偶者や子どもに財産を引き継ぐことはできますが、残された家族が高齢だったり障がいを持っている場合には、引き継いだ財産を管理したり活用することができない場合があります。
家族信託を利用することで、信頼できる親族等が残された高齢配偶者や障がいを持つ子どもに代わって財産管理を行い、配偶者や子どもの生活費を確保することができます。
「信託」とは、「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度です。
よく聞く「信託銀行」は、委託者から移転された資産を運用し、得られた利益を委託者または第三者に還元することを業務としている銀行です。
「家族信託」とは、資産を持つ方が、特定の目的(例えば「自分の老後の生活・介護等に必要な資金の管理及び給付」等)に従って、その保有する不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、その管理・処分を任せる仕組みです。いわば、「家族の家族による家族のための信託(財産管理)」と言えます。
家族信託の主な登場人物は次の3者です。
財産を受託者に引き渡して信託を設定する。受託者に信託財産の管理・処分の指示もする。
委託者から財産を引き受け、信託の目的に従って信託財産を管理・処分する。
信託財産を管理・処分したことで得られる利益を受ける。
信託の設定によっては、委託者が受益者を兼ねる「委託者=受益者」とすることもできます。
また必要に応じ、受託者を監視監督する立場の「信託監督人」や受益者が信託財産から利益を受けられない場合などに代わりに利益を受ける「受益者代理人」などを設定することができます。
そのご家族の事情により、登場させる人物が違ってきますが、基本的な仕組みを図に表すと次のようになります。
任意後見制度では、本人が認知症になるまで後見人予定者は本人の資産(財産)管理を行うことができません。また資産管理を行う場合も裁判所の許可が必要となったり、積極的な活用ができないなどの制限があります。
家族信託の場合は、本人(委託者)に判断能力があるうちから受託者に資産管理を任せることができます。受託者は資産の売却や運用など、本人の希望に即した柔軟な資産管理や積極的に有効活用することができます。
家族信託では、親が元気なうちに財産の名義を子に移しておき、その財産を自分(親)のために使って欲しい場合、親を委託者兼受益者、子を受託者とすることで、老後や認知症になった後の資産管理を子に任せることができます。
遺言の場合は法律(民法)で厳格な方式が決められていますが、家族信託は委託者と受託者の契約で行うため、遺言のような厳格な方式によらず、自分が亡くなった後の財産の承継を決めておくことができます。
家族信託の目的となっている信託財産は、委託者の財産からも受託者の個人財産からも切り離されて管理されます。
そのため、委託者や受託者が自己破産して、債権者から財産の差し押さえを受ける場合でも、信託財産を債権者が差し押さえることはできません。このように、委託者や受託者の財産と切り離して管理されることを財産隔離機能といい、不動産を信託財産とする場合は登記することによってこの機能が有効となります。
配偶者が先に認知症になっていたり、知的障害を持った子がいる場合、自分が亡くなって配偶者や子が財産を相続しても十分な管理をすることができないことが考えられます。
家族信託で「自分が亡くなったら受益者は配偶者(子)に変更する」としておけば、配偶者や子の生活・療養費を確保することができます。
相続で一つの不動産を複数の相続人の共有としてしまうと、後に不動産を売却しようとしても共有者全員の同意が必要となり、一人でも反対者がいると売却できなくなるなどのリスクがあります。
そこで不動産を信託財産とする信託を設定し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことができるようになります。
家族信託の遺言書機能を利用することで、次の世代以降の相続の指定をすることができます。
家族信託では、事前に財産の移転先を細かく設定することが可能で、遺言書ではできない二次相続以降の相続についても「受益権の継承先」を指定することができます。
第1受益者が死亡した場合は第2受益者に受益権が継承され、第2受益者が死亡した場合は第3受益者へと受益権が移転します。
委託者は、第1受益者、第2受益者、第3受益者を指定することで次の世代まで確実に財産を継承させていくことができます。
家族信託で管理できるのは信託財産だけです。受益者の生活に係る法律行為、身上監護を家族信託で行うことはできません。
例えば、受益者が認知症となり、介護施設への入所や介護サービスの契約が必要となっても、受託者はそのような法律行為をすることができません。
そのような場合は成年後見制度の利用が必要になります。
信託財産の名義は委託者から受託者に移管されます。自分が認知症になった後や、亡くなった後も約束通り受益者のために財産を管理してくれると信じられる家族や親族がいなければ、家族信託は成り立ちません。
家族信託は、相続税を節税することが目的ではなく、委託者の意思に基づいた財産の移転を確実に行うことに焦点を当てている制度です。
家族信託に伴う課税も複雑になるため、税金的なメリットはありません。
家族信託に関して、ご質問・お問合せ・ご相談がありましたら、お気軽にご連絡ください。オンラインで全国対応も可能です。
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