父親の相続で子の兄弟二人が相続人であったとして、兄は家の購入資金として父親から生前にまとまった金額の援助(贈与)を受けていたのに対し、弟にはそのような機会が無かった場合に、兄弟が同じ割合で相続財産を分けるとしたら、弟からすれば不公平に感じるのではないでしょうか。
そこで、民法は、共同相続人(※1)間の公平を図るべく、特別な受益を相続分の前渡しとみて、計算上、当該受益を相続財産に持ち戻して相続分(※2)を算定することにしており、この受益のことを「特別受益」と言います。
※1 共同相続人
相続が発生し相続人が複数居る場合、被相続人(故人)の遺産は相続人全員による共有となり、遺産分割を経ることで共有が解消されます。この遺産分割前の共有状態にある相続人を共同相続人といいます。
※2 相続分
プラスの財産(積極財産)とマイナスの財産(消極財産)を含めた遺産全体に対する相続人の割合的な持ち分のことを相続分いいます。
目次
共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前贈与を受けたりしていた者がいた場合に、相続に際して、この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けたとすると不公平が生じます。そこで、民法は、共同相続人間の公平を図るべく、特別な受益を相続分の前渡しとみて、計算上、当該受益を相続財産に持ち戻して相続分を計算することにしており、この受益のことを「特別受益」と言います。
特別受益が存在する場合には、相続財産に持戻しを行って相続分を算定します。
特別受益として持戻しの対象となる財産は、「遺贈」又は「婚姻、養子縁組のための贈与」若しくは「生計の資本としての贈与」です。生前贈与について一定の限度が加えられた理由は、上記贈与であれば、相続分の前渡しの趣旨で行われたと通常見ることができること、上記に該当しない贈与まで含めると計算が煩雑となって面倒と考えられたからです。
ア)遺贈
目的にかかわりなく、すべて持戻しの対象となります。
イ)生前贈与
a「婚姻、養子縁組のための贈与」
持参金、嫁入り道具、結納金、支度金又は養子縁組のために特に被相続人に支出してもらった費用が当たります。
b「生計の資本としての贈与」
「生計の資本」とは一般に広く解されています。営業資金を贈与した場合等に限らず、生計の基礎として役立つような贈与は一切これに含まれるとされており、相当額の贈与は特別な事情がない限り、この特別受益に含まれると解釈されることが多いです。
特別受益の計算に当たっては、まず、被相続人が相続開始時に有していた積極財産(債務を控除しないもの)に、特別受益に当たる贈与額を加算します。この加算のことを「持戻し」といい、持戻しをした合計額を「みなし相続財産」といいます。
次に、「みなし相続財産」を基礎にした上で、各共同相続人の相続分を乗じて各相続人の相続分(一応の相続分)を算定し、特別受益を受けた者については、子の額から特別受益分を控除し、その残額をもって特別受益者が受けるべき具体的な相続分を算定します。
被相続人Aは、4,000万円の財産を残して死亡しました。Aの相続人には、妻B、長男C、長女Dがいます。Aは生前にCに対し営業資金1,000万円を、Dには結婚時の持参金として600万円を贈与しています。各相続人の具体的相続分はどうなるでしょうか。
①みなし相続財産の計算
4,000万円(死亡時の財産)+1,000万円(Aへの生前贈与)+600万円(Bへの生前贈与)=5,600万円
②各相続人の相続分を乗じた額(一応の相続分)
B 5,600万円×1/2=2,800万円
C、D 5,600万円×1/2×1/2=1,400万円
③具体的相続分
B 2,800万円
C 1,400万円-1,000万円=400万円
D 1,400万円-600万円=800万円
被相続人は、意思表示によって特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます。この意思表示を「持戻免除の意思表示」と言います。持戻免除の意思表示をしていれば、持戻計算をする必要はないとされています。生前贈与や遺贈をその者の特別な取り分として与えようとする被相続人の意思を尊重しようとするものです。
持戻免除の意思表示は、生前贈与の場合には、特別な方式は要求されず、贈与と同時である必要も無く、明示たると黙示たるを問わずに行うことができます。
なお、平成30年改正法において、令和元年7月1日から、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈や、贈与をしたときは、持戻免除の意思表示をしたものと推定するとされています。
ただし、持戻しを免除された特別受益が他の相続人の遺留分を侵害している場合については、遺留分侵害額請求により、遺留分侵害額相当の金銭を支払うことになる点に注意が必要です。
なお、遺留分算定の際に算入される「特別受益となる贈与」は、相続開始前の10年間にしたものに限られ、贈与者双方が、遺留分権者の損害発生について悪意の場合を除いて、10年よりも以前の特別受益は遺留分の算定に取り込めません。
被相続人からの特別受益を受けた相続人の相続分を修正することで、共同相続人間の実質的公平を図ることができる。
①明示又は黙示の意思表示により、持戻免除の意思表示が認められる場合がある。
被相続人は、意思表示によって特別受益者の受益分の持戻しを免除することができます。この意思表示を「持戻免除の意思表示」と言います。持戻免除の意思表示は、生前贈与の場合には、特別な方式は要求されず、贈与と同時である必要は無く、明示たると黙示たるを問わずに行うことができます。これに対し、遺贈の場合には、遺言によって持戻免除を行うことができます。
②紛争が長期化することが通常である。
特別受益に関しては、そもそも特別受益に該当するか否か、該当するとして持戻免除の意思表示があったか否かについて、当事者間で争いが生じることが多い。特別受益は、相当過去に遡って主張されることが多く、主張される受益の数も多くなることが多いことから、紛争が長期化することが通常です。
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