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相続登記の義務化など、所有者不明土地解消に向けた不動産に関するルール変更について解説

令和3年(2021年)4月21日の国会において、所有者不明土地の解消を目的とした法律の改正、制定が行われ、不動産に関するルールが変更されることになりました。
ここではルール変更が必要となった背景、またどのように変更されるのかを解説していきます。

相続登記の義務化など、所有者不明土地解消に向けた不動産に関するルール変更について解説

目次

1.はじめに

(1) 所有者不明土地とは

相続登記がされないこと等により、以下のいずれかの状態になっている土地を「所有者不明土地」といいます。
① 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
② 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地

(2) 所有者不明土地の問題点

所有者不明土地は土地の所有者の探索に多大な時間と費用が必要となり、土地の売買や公共事業、災害復旧・復興が円滑に進まず、土地の利用活用の阻害要因となったり、土地が管理されず放置され、隣接する土地への悪影響が発生したりするなど、様々な問題が生じています。

全国のうち所有者不明土地が占める割合は九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。今後、高齢化の進展による死亡者数の増加により、ますます深刻化する恐れがあり、その解決は喫緊の課題とされています。

(3)法律改正・制定のポイント

令和3年(2021年)4月21日、国会において「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。(令和3年4月28日公布)
両法律では、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の両面から、民事基本法制の総合的な見直しが行われています。

① 登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し【発生予防】

  • 相続登記・住所等の変更登記の申請義務化
  • 相続登記・住所等の変更登記の手続き簡素化・合理化 など

② 土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設【発生予防】

  • 相続等により土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設

③ 土地利用に関する民法のルールの見直し【土地利用の円滑化】

  • 土地・建物に特化した財産管理制度の創設
  • 共有地の利用の円滑化などの共有制度の見直し
  • 遺産分割に関する新たなルールの導入
  • 相隣関係の見直し など

2. 不動産登記制度の見直

(1) 相続登記の申請の義務化

令和6年(2024年)4月1日施行

①なぜ相続登記の申請が義務化されるのか

相続が発生してもそれに伴って相続登記がされない原因として、①これまで相続登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかったこと、②相続した土地の価値が乏しく、売却も困難であるような場合には、費用や手間を掛けてまで登記の申請をする意欲がわきにくいことが指摘されています。
そのため、相続登記の申請を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防しようとしています。

②相続登記の申請義務化についてのルール

A 基本的なルール
相続(遺贈も含みます)によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされました。

B 遺産分割が成立した時の追加的なルール
遺産分割の話合いがまとまった場合には、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請しなければならないこととされました。

A、Bともに、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象となります。

(2) 相続人申告登記

令和6年(2024年)4月1日施行

不動産を所有している方が亡くなった場合、その相続人の間で遺産分割の話合いがまとまるまでは、すべての相続人が法律で決められた持分(法定相続分)の割合で不動産を共有した状態になります。
この共有状態を反映した相続登記を申請しようとする場合、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定しなければならないため、すべての相続人を把握するための資料(戸籍謄本など)の収集が必要となります。
そこで、より簡易に相続登記の申請義務を履行することができる仕組みが新たに設けられました。

「相続人申告登記」
①登記簿上の所有者について相続が開始したことと、②自らがその相続人であることを登記官に申し出ることで、相続登記の申請義務(上記のA)を履行することができます。
この申し出がされると、申し出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分の割合までは登記されないので(※)、すべての相続人を把握するための資料は必要ありません(自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出すればOK)。
※相続によって権利を取得したことまでは公示されないので、相続人申告登記は従来の相続登記とは異なるものです。

(3) 所有不動産記録証明制度

令和8年(2026年)4月までに施行

これまで親の不動産がどこにあるかを調べるだけで大変な手間がかかることがありましたが、登記官において、特定の被相続人(亡くなった親など)が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度が新たに設けられました。

(4) 住所等の変更登記の申請の義務化

令和8年(2026年)4月までに施行

登記簿上の所有者の氏名や住所が変更されても登記がされない原因として、①これまで住所等の変更登記の申請は任意とされており、かつ、その申請をしなくても所有者自身が不利益を被ることが少なかったこと、②転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登記をするのは負担であることが指摘されています。
そこで、住所等の変更登記の申請を義務化することで、所有者不明土地の発生を予防しようとしています。
登記簿上の所有者については、その住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請をしなければならないこととされました。
正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象となります。

(5) 他の公的機関との情報連携・職種による住所等の変更登記

令和8年2026年)4月までに施行

住所等の変更登記の手続き簡素化・合理化を図る観点から、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権で住所等の変更登記をする仕組みが導入されます。
ただし、個人の場合には、住基ネットからの情報取得に必要な検索用情報(生年月日など)を提供する必要があります。また、変更登記がされるのは、本人の了解があるときに限られます。
【個人の場合】
①検索用情報(生年月日など)の提供
②法務局側で定期的に住基ネットを検索
③住所等の変更があれば本人の了解を得て、職権で変更登記
【法人の場合】
①商業・法人登記上で住所等に変更があれば不動産登記システムに通知
②職権で変更登記

(6) DV被害者等の保護のための登記事項証明書等の記載事項の特例

令和6年(2024年)4月1日施行

DV防止法、ストーカー規制法、児童虐待防止法の被害者等を対象に、対象者が載っている登記事項証明書等を登記官が発行する際には、現住所に代わる事項を記載する制度が設けられました(本人からの申し出が必要です)。
現住所に代わる事項としては、委任を受けた弁護士等の事務所や支援団体等の住所、法務局の住所などが想定されています。

3. 相続土地国庫帰属制度の創設

令和5年(2023年)4月27日施行

(1) どんな制度なのか

都市部への人口移動や人口の減少・高齢化の進展などを背景に、土地の利用ニーズが低下する中で土地所有に対する負担感が増加しており、相続された土地が所有者不明土地の予備軍となっていると言われています。
そこで、所有者不明土地の発生予防の観点から、相続等によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣(窓口は法務局)の承認により、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が新たに創設されました。

(2) 申請条件

基本的に、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人であれば申請可能です。制度の開始前に土地を相続した方でも申請をすることができますが、売買等によって任意に土地を取得した方や法人は対象になりません。
また、土地が共有地である場合には、相続や遺贈によって持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があります。

(3) 制度の対象外となる土地

次のような通常の管理または処分をするにあたって過大な費用や労力が必要となる土地については対象外となります(要件の詳細については、今後、政省令で定められる予定です)。申請後、法務局職員等による書面審査や実地調査が行われます。
<国庫帰属が認められない土地>
●建物、工作物、車両等がある土地
●土壌汚染や埋設物がある土地
●危険な崖がある土地
●境界が明らかでない土地
●担保権などの権利が設定されている土地
●通路など他人による使用が予定される土地

(4) 手続にかかる費用

申請時に審査手数料の納付が必要となるほか、国庫への帰属について承認を受けた場合には、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります。具体的な金額や算定方法は、今後、政令で定められる予定です。

4. 民法のルール見直し

(1) 土地・建物に特化した財産管理制度の創設

令和5年(2023年)4月1日施行

所有者不明土地・建物や、管理不全状態にある土地・建物は、不動産取引や公共事業を阻害したり、近隣に悪影響を発生させるなどして問題となりますが、これまで、その管理に適した財産管理制度がなく、管理が非効率になりがちでした。
そこで、土地・建物の効率的な管理を実現するために、所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられました。

①所有者不明土地・建物の管理制度

調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人(※)を選任してもらうことができるようになります。管理人は、裁判所の許可を得れば、所有者不明土地の売却等もすることができます。

②管理不全状態にある土地・建物の管理制度

所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利・法的利益が侵害されまたはその恐れがある土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人(※)を選任してもらうことができます。管理人により建物の補修工事や、ゴミの撤去、害虫の駆除などをすることができます。
※管理人には、事案に応じて弁護士・司法書士等のふさわしい者が選任されます。

(2) 共有制度の見直し

共有状態にある不動産について、所在等が不明な共有者がいる場合には、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができなかったり、処分できずに不動産取引や公共事業を阻害したりしているといった問題が指摘されています。
また、所有者不明土地問題をきっかけに共有物一般についてのルールが現代にあっていないことが明らかになりました。
そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点から、共有制度全般について様々な見直しが行われました。

①共有物を利用しやすくするための見直し

●共有物につき軽微な変更をするために必要な要件が緩和されました(全員の同意は不要で、持分の過半数で決定可)。
●所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、
・残りの共有者の持分の過半数で、管理行為(例:共有者の中から使用者を1人に決めること等)ができます。
・残りの共有者全員の同意で、変更行為(例:農地を宅地に造成すること等)ができます。

②共有関係の解消をしやすくするための新たな仕組みの導入

所在等が不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、所在等が不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡することができます(※)。
※裁判所において、持分に応じた時価相当額の金銭の供託が必要になります。

(3) 遺産分割に関する新たなルールの導入

令和5年(2023年)4月1日施行

相続が発生してから遺産分割がなされないまま長期間放置されると、相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となる結果、遺産の管理・処分が困難になります。
また、遺産分割をする際には、法律で定められた相続分(法定相続分)等を基礎としつつ、個別の事情(例えば、生前贈与を受けたことや、療養看護等の特別の寄与をしたこと)を考慮した具体的な相続分を算定するのが一般的です。しかし、長期間が経過するうちに具体的相続分に関する証拠等がなくなってしまい、遺産分割が難しくなるといった問題があります。
そこで遺産分割がされずに長期間放置されるケースの解消を促進する仕組みが新たに設けられました。

「長期間経過後の遺産分割のルール」
被相続人の死亡から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うこととされました。

(4) 相隣関係の見直し

令和5年(2023年)4月1日施行

隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合には、隣地の所有者からの隣地の利用や枝の切り取り等に必要となる同意を得ることができないため、土地の円滑な利活用が困難となります。
そこで、隣地を円滑・適正に使用することができるようにする観点から、相隣関係に関するルールの様々な見直しが行われました。

①隣地使用権のルール見直し

協会調査や越境してきている竹木の枝の切り取り等のために隣地を一時的に使用することができることが明らかにされるとともに、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合にも隣地を使用することができる仕組みが設けられました。

②ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備

電気やガス、水道等のライフラインを自己の土地に引き込むために、導管等の設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利があることが明らかにされるとともに、設置、使用のためのルール(事前の通知や費用負担などに関するルール)も整備されました。

③越境した竹木の枝の切り取りのルールの見直し

催促しても越境した枝が切除されない場合や、竹木の所有者やその所在を調査しても分からない場合等には、越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備されました。

5. おわりに

ここまで所有者不明土地の解消に向けた様々な制度の新設・見直しについて見てきました。
これまでは特に問題にならなかったことでも、今後はペナルティーの対象になってしまうことがあります。新しい制度についてよく理解した上で対応するか、専門家に相談するようにしましょう。

関連リンク
 政府広報オンライン「なくそう、所有者不明土地!