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相続対策 納税資金対策としての生命保険の活用

相続財産のほとんどが自宅などの不動産であり、現金や預金があまりない状態のまま相続が発生すると、相続税の納期期限までに納税資金が準備できずやむを得ず相続財産の一部を売却するなど納税資金に困るケースが考えられます。
納税資金を確保するために比較的簡単な手続きとして生命保険への加入が有効です。想定される相続税額を正しく算出し、納税資金として生命保険でいくら確保するのか、保険料でいくら支払うのか、受取人を誰にするのかなど事前にしっかり検討することが重要です。

相続対策 納税資金対策としての生命保険の活用

目次

1 生命保険活用のポイント

(1)生命保険を利用するメリット

  1. 生命保険加入時に必要補償額が確保できるので、いつ相続が発生しても保険金を納税資金に充てることができる。
  2. 生命保険によって納税資金を確保できれば、他の相続財産の売却等をしなくてすむ。
  3. 相続人が保険金を受け取った場合には保険金の非課税枠が使える。
  4. 生命保険金を代償分割の支払い資金として利用するなど争族対策にも有効である。
    例えば兄弟がいて長男が家(不動産)を一人で相続することで、他の兄弟と比べて長男の相続金額が多くなるような場合では、公平になるよう長男が他の兄弟にお金を渡すケースがあり、このことを代償分割といいます。長男の現預金に余裕がない場合には、亡くなった親(被相続人)の生命保険金を充てることができます。

(2)生命保険を利用する場合の注意点

  1. 一生涯保障の続く終身保険で有期払込みのものが望ましくて、若い時には大きな保障で高齢になると補償額が小さくなるものは適さない。
    納税資金の対策として生命保険を活用する場合には、長生きしても死ぬまで一生保証の続く「終身保険」が適しています。健康でできるだけ若いうちに加入できるのが理想です。また支払方法にも期間を定めて保険料を払い終える有期払込みの形態がより適しています。
  2. 年齢や健康状態によっては、終身保険への加入ができない恐れがある。
  3. 配偶者である妻が受け取った生命保険で、子の負担すべき相続税を納めると配偶者から子への贈与となり贈与税が課せられる恐れがある。
    生命保険の受取人を配偶者としている場合に、配偶者がその受け取った保険金を使って子の負担すべき相続税を代わりに納付することは配偶者から子への贈与となり贈与税が課税される恐れがあります。そのため納税資金対策として保険に加入する場合には各人の相続税の負担額をあらかじめ想定した上で受取人を決める必要があります。
  4. 一次相続のみを考えて生命保険に加入すると、結果的に二次相続でも多額の相続税がかかる恐れがある。
    財産を多く所有している被相続人に相続が発生し、配偶者である妻が財産を取得した場合にはその段階で配偶者である妻の二次相続を想定した対策が必要となってきます。その際、一次相続のみを想定して被相続人のみが保険に加入していた場合などに、後に妻である配偶者にも保険が必要になってもその時点では年齢や健康上の理由から保険への加入が難しく加入できなくなっている恐れがあります。そのことから妻もできるだけ若いうちから保険へ加入しておくなど一次相続だけでなく二次相続も考慮した上で保険を活用することが大切です。また、一次相続で相続税を抑えることだけを考えて配偶者へ財産を多く相続させ配偶者の税額軽減を受けると、二次相続の際の子への財産の移転時に相続税が高くなってしまい結果的に一次相続、二次相続トータルでの相続税の負担が重くなる場合があります。

2 納税資金対策としての生命保険について

(1)納税対策が必要なケース

相続が発生した場合には、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に相続税の全額を現金で納付しなければなりません(延納や物納の適用を受ける場合を除きます。)そのため、相続財産のうちに占める現預金や上場株式等の換金性の高い財産が相続税額を上回っていれば納税資金に充てることができますが、下回っている場合には相続人固有の財産を充当しなければならず、それでも足りない場合には、相続した自宅などの不動産を処分して換金することで納税資金を捻出するなど相続財産が被相続人や相続人の意向に反して引き継がれる形になってしまうケースが考えられます。

(2)生命保険活用の効果

相続税の納税資金対策として生命保険を活用する場合には、生命保険の加入時に必要な保障額が確保されるため、相続がいつ発生しても納税資金に備えることが可能となります。終身保険の有期払込で生命保険に加入することで死亡時に確実に生命保険金が受け取れ、納税資金対策には着実な方法といえます。

(3)生命保険を利用するには計画・準備が大切

相続税の納税資金対策が必要な場合とは、相続財産の総額を計算し、算出した相続税の総額が相続財産のうちに占める現預金などを超える場合や、相続人によっては不動産だけを相続する場合に納税資金の原資が不足する場合など、それぞれの立場により必要な納税額が異なるため、財産の行き先とその財産を受け取る側に納税資金が準備できるかをきちんと計画した上で不足する金額について保険に加入することで納税に備えることとなります。

3 二次相続での思わぬ落とし穴に注意

(1)二次相続まで含めた考慮が大切

生命保険を活用して納税資金対策を行う上では、生命保険の受取人を誰にするのかが重要となってきます。例えば、被相続人である父の相続に備えて納税資金に備えるため保険へ加入する場合に受取人を配偶者である母としていると、一次相続である父の相続の際には配偶者の税額軽減の適用があるため相続税を抑えることができますが、二次相続である母の相続の際には生命保険金の非課税の適用しかなく、またその受け取った生命保険の一部が現金の形で財産として母の手元に残っている場合には、再度母の相続の際に相続税の課税を受けることになります。

(2)二次相続まで考慮した対策とは

生命保険金の受取人を配偶者である母としていても配偶者の税額軽減により母に納税額が発生しない場合が多くあるため、納税資金の準備目的であり、配偶者である母の生活保障を考えなくてよい場合には保険金の受取人は配偶者以外の子へ変更しておく方がよいでしょう。
また、配偶者である母に固有の財産が多くあり、母についても相続税の納税が発生する見込みである場合については、父の保険加入の際に同時に母も納税資金対策の保険へ入っておくことで母の相続の際の納税資金の準備も進めることができます。
納税資金に充てるための保険として加入する終身保険については、一般的に年齢が若い方が保険料を低く抑えられるため、二次相続対策を考える上では夫婦でできるだけ早い段階で加入し払込みを終えておくことが理想と考えられます。

4 納税対策として生命保険を活用した事例

現在60歳であるAさんは代々受け継いできた不動産が主な財産であり、その他の財産を含めて3億円となります。Aさんに相続が発生した場合には、3人の子の長男に不動産についてはその全てを相続することで家族間の合意ができています。しかし実際に相続が発生した場合には、多額の相続税が発生しますが、不動産を多く所有していることからも、長男に納税資金が不足することは明らかです。Aさんは相続税の納税資金を捻出する目的で先祖から受け継いだ土地などを売り払うことは避けたいと考えており、納税資金について早急な対策が必要となってきました。相続税の納税資金に充てられる預貯金が3,000万円程ありますが相続税額には足りないと予想されます。Aさんは現在、健康上の問題もなく保険への加入は問題なさそうです。

(1)納税資金対策の保険

不動産や自己株式など換金が困難である財産の占める割合が高く、相続税の納税資金が不足するような事例はしばしば見受けられます。保険への加入が健康上問題なければ、保険へ加入しその死亡保険金を原資として相続税の納税資金に充てることで対策を打つことができます。また、相続税の総額を保険額とする保険に加入することができれば相続財産を無傷で次の世代へ相続させることも理論上可能となります。

(2)事例における対応

① 保証額の計算

事例では、Aさんの財産の総額は3億円であり法定相続人は子3人と想定されます。この事例において相続税の総額を算出すると、3億円-4,800万円(基礎控除額3,000万円+600万円×3人)となり2億5,200万円に対する相続税額は5,460万円となります。納税資金に充てられる預貯金3,000万円を差し引いても2,460万円不足する計算になります。

② 生命保険による効果

現時点で相続が発生した場合に納税資金として不足している2,460万円をカバーできる保証額の終身保険へ加入することで対策をします。契約者=Aさん、被保険者=Aさん、受取人=長男とすることで相続額の負担者である長男が受け取った保険金により相続税を納付することで他の財産を処分することなく納税に備えることができます。保険料の期間を10年の有期払込みとし、その10年の間に相続が発生した場合にはそれまでの累計保険料のみで死亡保険の満額を受け取ることができるため、その保険金により納税資金を賄うことが保険へ加入した時点から可能となります。しかし、高齢のため支払う保険料も高額になっており、途中で解約した際には解約返戻金が累計保険料を下回るため保険料を払込期間中ずっと払い続けることができるかなど事前にしっかりとした検討が必要です。また、10年間の支払保険料の総額と死亡時の保険金額とにあまり差が無いため、保険で万が一の際の納税資金に備えるとともに現状の不動産を活用し納税資金を貯めていくなど、あらゆる面で相続への準備をしておくことが大切です。

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