終活・相続・遺言・家族信託の行政書士下山たかし事務所
事務所:045-517-8350
営業時間: 9:00~18:00(月~金)

相続させたくない人がいるときに使われる相続人の廃除とは

自分の相続人になりうる者(推定相続人)に対し、何らかの事情で自分の死亡後に遺産を渡したくないとき、遺言をする方法もありますが、遺留分を有する推定相続人の場合には完全に防ぐことはできません。家庭裁判所により相続廃除の適用が認められると、その推定相続人の相続権を完全にはく奪することができます。

相続させたくない人がいるときに使われる相続人の廃除とは

目次

Ⅰ 推定相続人の廃除

1 廃除とは

推定相続人の中には、相続欠格のように当然に相続資格をはく奪するほどの重大な事由ではないものの、被相続人を虐待したりする、著しい非行のあるといった、被相続人にとって相続させたくないと感じさせるような言動をする者がいることがあります。このような場合、被相続人又は遺言執行者の請求に基づき、家庭裁判所が審判によってその者の相続権をはく奪することができます。これを推定相続人の廃除といいます。

廃除できるのは、遺留分を有する推定相続人に限ります。遺留分が認められていない兄弟姉妹に対しては、必要な場合は遺言で対応することができます。

2 生前廃除と遺言廃除

相続人の廃除は、被相続人自身が生前に家庭裁判所に請求することによって行うこともできますし(生前廃除)、遺言で行うこともできます(遺言廃除)。

Ⅱ 廃除の原因

1 法定の廃除原因

廃除原因として、法は①被相続人に対する虐待、②重大な侮辱、③著しい非行を挙げています。
どの程度の虐待、侮辱又は非行があれば廃除が認められるかですが、虐待、侮辱又は非行といった概念は主観的な要素を多く含み、一律の基準で決するのは非常に困難です。これまでの裁判所の判例では、被相続人との間に家族としての信頼関係(相続的共同関係)を破壊するような行為であることを要するとされています。なお、実務上、虐待と侮辱は厳密に分けられていないようです。

2 廃除が認められる例

(1)実親子の事例

①高齢・病気の親を虐待したり扶養を放棄したりした場合

病気の親に生計費を与えずに裏小屋に閉じ込めて暴言・暴行を加えた行為を重大な虐待及び著しい非行に当たるとした(仙台高決昭32.2.1)。
高齢で介護の必要な親の介護を妻に任せたままに行方をくらまし、妻との離婚後も自らの所在を明らかにせず、扶養料を全く支払わなかったりした行為を著しい非行に当たるとした(福島家審平19.10.31)。

②浪費、賭け事、借金等で社会の落伍者になる、被相続人に借金の肩代わりをさせるなどいわゆる「親泣かせ」の場合

借金を重ねては被相続人に2000万円以上の金額を肩代わりさせた上、債権者が被相続人宅に押しかけるといった事態を招いたことにより、約20年間被相続人を経済的・精神的に苦しめた子について、著しい非行に当たるとして排除を認めた(神戸家伊丹支審平20.10.17)。

③被相続人の財産を無断で処分する、遺産の独占目的で被相続人の財産を自己名義に変更する等の被相続人に対する違法行為があった場合

廃除事由を認めた事例が複数ある(福岡家小倉支審判昭46.9.17、熊本家審昭54.3.29等)。

(2)養親子間の事例

養親子間では、裁判上の離縁原因がある場合には廃除事由に該当するとされる場合が多いようです。判例では、養子縁組をしたにも関わらず、同居したこともなく、被相続人との関係を一切絶っていた養子につき、著しい非行に当たるとしています(旭川家審昭59.4.18)。

(3)夫婦間の事例

夫婦間では、裁判上の離婚原因がある場合には廃除事由に該当するとされる場合が多いようです。判例では、多少の経済的援助をしていたとしても、長年愛人と生活し、妻を遺棄していた夫につき、著しい非行にあたるとしています(名古屋家審昭61.11.19)。

3 廃除が認められない例

(1)被相続人にも責任がある場合

子の暴言、暴行は、父(被相続人)の性格・考え方に偏りがあり、子の意思を無視して自己の意に従わせようとし、従わないところから子を排斥しようとしたことに起因するとした例(大阪高決昭37.3.13)、暴力沙汰といってもいずれが挑発、いずれが責任をとるべいか明らかでなく、「この親にしてこの子ありの観なきにしもあらず」であるとした例(秋田家審昭38.9.16)等があります。

(2)被廃除請求者の虐待・侮辱・非行が一時的なものである場合

子が侮辱的な言辞に及んだとしても一時の激情にかられたものであり、売り言葉に買い言葉という形で発せられたものである例(大阪高決昭40.11.9)等があります。

(3)行為自体は不当又は違法とはいえない場合

親の意に沿わない結婚をしただけという例(札幌家審昭37.9.25、福岡高宮崎支決昭40.6.4等)、子が実家に近寄らず火事見舞いや病気見舞いをしない例(佐賀家審昭41.3.31)、被相続人に対して特に無根の事実に基づくわけでもなく法的手段(旧準禁治産宣告(現保佐開始審判)の申立、調停申立、背任罪での告訴等)をとった例等があります。

(4)違法な行為が直接被相続人に向けられていない場合

勤務先の会社の金5億円を横領して被相続人の面目体面を失墜させた例(東京高決昭59.10.18)等があります。

Ⅲ 廃除の手続き

1 生前廃除

(1)生前廃除の申立人

被相続人が存命中に相続廃除の手続きをしたいと考えた場合は、被相続人自身が家庭裁判所に相続廃除の申立てをします。

(2)生前廃除の手続きの流れ

①被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の必要書類と手数料を添えて申立てをする。
 ・相続廃除申立書
 ・被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
 ・廃除したい推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
②審判が確定する。
③審判書謄本と確定証明書の交付を受けられるようになる。
④廃除が認められた場合には、10日以内に被相続人の戸籍がある市区町村役場に以下の書類を提出し、推定相続人の廃除を届ける。
 ・推定相続人廃除届
 ・家庭裁判所による審判書の謄本
 ・審判の確定証明書
⑤推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載される。

2 遺言廃除

(1)遺言廃除の申立人

遺言廃除の場合、単に遺言書に「○○を廃除する」と記載しただけで、遺言者の死亡後直ちに廃除の効力を生ずるわけではありません。遺言廃除の効力を発生させるには、生前廃除同様、家庭裁判所による審判によることを要します。
遺言廃除の請求者は、遺言執行者です、遺言執行者は、遺言の効力が発生した後、すなわち遺言者死亡後、遅滞なく、廃除の手続きをとらなければなりません。

(2)遺言廃除の手続きの流れ

①遺言執行者が、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、以下の必要書類と手数料を添えて申立てをする
 ・遺言執行者、推定相続人及び被相続人の各戸籍謄本(戸籍記載事項証明書)
 ・遺言書の写し、又は遺言書の検認調書謄本の写し
 ・遺言執行者の資格証明書(遺言書に遺言執行者が指定されているときは不要)
②審判が確定する。
③審判書謄本と確定証明書の交付を受けられるようになる
④廃除が認められた場合には、遺言執行者等が、10日以内に被相続人の戸籍がある市区町村役場に以下の必要書類を提出し、推定相続人の廃除を届け出る。
 ・推定相続人廃除届
 ・家庭裁判所による審判書の謄本
 ・審判の確定証明書
⑤推定相続人の戸籍に廃除された旨が記載される。

Ⅳ 審判に対する不服申立

廃除の申立てを容認する審判の場合には相手方である推定相続人(被廃除者)が、廃除の申立てを却下する審判の場合には申立人である被相続人又は遺言執行者が、即時抗告を申し立てることができます。
ただし、廃除を求めていない推定相続人が利害関係人として審判手続きに参加した場合には、その参加人は廃除の申立てを却下する審判に対して即時抗告をすることができません。

Ⅴ 最後に

廃除は推定相続人の相続権を奪う重大な手続きであるため、廃除原因の認定は厳格になされており、単に「この子は嫌いなので財産を遺したくない」という程度では廃除は認められない可能性が高いといえます。遺言による廃除の意思表示を行う際は、廃除原因の有無について慎重に検討する必要があるといえるでしょう。

また、廃除された推定相続人に子がいる場合、相続放棄とは違い、子に代襲相続が認められることにも注意が必要です。子が未成年者である場合には、廃除された相続人が子の親権者として、子が代襲相続した財産を実質的に管理することも考えられます。

関連ブログ
 相続をしたくないときはどうすればよいか
 相続財産がマイナスとなる場合の対策-相続放棄について解説

相続、相続人の廃除に関するお問合せ・ご相談は下記お問合せ・ご相談ボタンよりご連絡ください。