家族信託と委任契約の違いについて
人が認知症になってしまうと、銀行が口座を凍結して現金を引き出せなくなったり、所有する不動産の取引もできなくなってしまう可能性があります。
認知症になった場合に備え、健康なうちにその人の資産を誰がどのように管理するかを定めておく法的な方法としては、家族信託や財産管理委任契約、任意後見契約などの方法があります。
ここでは、家族信託の「信託」と財産管理委任契約や任意後見契約の任意の「委任契約」との違いについて見ていきたいと思います。
1 設定方法
委任
・「契約」で法律関係を設定する必要がある
・委任する人(または法人)と受任する人(または法人)が別人である
信託
・契約に限らず、「遺言」や信託宣言と言われる「自己信託」という単独行為(相手の同意が必要ない行為)で行うことができる
・自己信託では委託者が受託者を兼ねることができる
2 財産の所有関係
委任
- 財産は委任者本人のもので、所有権は受任者に移転しない
- 委任者の債権者は、委任された財産の差押え等の強制執行ができる
信託
- 財産は委託者本人から受託者に移転し、受託者の所有名義になる
ただし、受託者の固有財産になる訳でもなく、「誰のものでもない財産」として扱われる - 委託者の債権者も、受託者の債権者も、信託された財産を差押える等の強制執行を行うことはできない
3 委任者と委託者の権限
委任
- 委任者の命令が絶対
「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」」(民法644条)
信託
- 「信託の目的」が最も尊重される
「受託者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすること」(信託法2条)
たとえ委託者の指示であっても信託の目的に反するような場合は、受託者は従うことはできない
4 監督機能
委任
- 委任事務を監督する仕組みは限定的
任意後見契約では受任者を監督する任意後見監督人が置かれることがあるが例外的
裁判所の関与も間接的
信託
- 監督機能(受益者保護機能)が制度の枠組みとしてある
受託者をを監督する制度として信託監督人などの監督者を置くことができる
裁判所も受託者の解任や自任、新受託者の選任など直接的に関与できる
5 第三者の扱い
委任
- 委任で第三者が当事者となるのは、第三者のためにする契約(民法537条)だけである
信託
- 信託では、信託の利益を享受する権利「受益権」を持った受益者が登場する
受益権は、受託者に財産の給付を求める権利だけでなく、「受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利」まである(信託法2条7項)
6 受任者、受託者の辞任
委任
- 委任は、「当事者がいつでもその会場をすることができる」(民法651条1項)とされ、いつでも契約関係から離脱できる
信託
- 受託者は、委託者及び受益者の同意を得なければ自任することができず、受任者が勝手に契約関係から離脱することができない
7 当事者の死亡
委任
- 委任契約は、当事者の一方が死亡すれば原則終了する(民法653条1号)
信託
- 信託は、当事者の死亡後も信託に影響はない。
遺言信託のように委託者の死亡によって始まる信託もある。
受託者が死亡しても次の受託者が決まっていればその者が引継ぎ、後継の受託者がいない場合でも当事者の合意により、それができなければ裁判所によって新受託者を選任することができる。
まとめ
以上みてきたように、委任と信託では様々な違いがあり、それぞれ一長一短があると言えます。
認知症になった場合の資産管理や身上監護に十分に備えておくためには、家族信託と任意後見契約の組合せなどが有効になると考えられます。