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自筆証書遺言書保管制度とは

遺言書にはいくつかの方式がありますが、自筆証書遺言書は、費用もかからず、いつでも一人で作成できる遺言書であるため、内容を他人に知られることなく、一番手軽に作成できる方式です。

その一方で、自宅で保管していて紛失してしまったり、遺言者が亡くなっても、家族等の相続人が遺言書の存在にすぐに気づかず、時間が経過してから遺言書がみつかるというケースもよくあります。

また、相続人にとって不利な遺言書をみつけた場合には、廃棄、隠匿、改ざんが行われる恐れもあります。

これらの問題により、相続をめぐる紛争に発展してしまうこともあります。

このような自筆証書遺言書の問題点を補い、遺言書作成を普及させるための制度として、自筆証書遺言書保管制度があります。

自筆証書遺言書保管制度とは

目次

1.自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言書保管制度とは、公的機関である法務局で自筆証書遺言書を保管してくれる制度です。

保管制度のメリット

  • 遺言書は遺言保管所で保管されるので、紛失する心配がありません
  • 相続人や関係者による廃棄、隠匿、改ざんを防ぐことができます
  • 法務局が保管手続きの際に、遺言書の外形的な形式を確認してくれます
  • 一般の自筆証書遺言書は、遺言者の死亡後に家庭裁判所の検認手続きを行う必要がありますが、保管所に保管されていた遺言書については、この検認手続きが不要になります
  • 公正証書役場で行う公正証書遺言書の手続きに比べて簡単で費用も安くすみます

2.自筆証書遺言書保管制度利用の流れ

(1)自筆証書遺言書を作成する
あくまでも「自筆証書遺言書」を保管する制度ですので、通常の自筆証書遺言書と同様に、本文はすべて自筆(手書き)で作成する必要があります。
注意しなければいけないのは、用紙サイズおよび余白の指定があることです。
・用紙:A4サイズ
・余白:上および右側5mm以上、下側10mm以上、左側20mm以上

(2)法務局所定の申請書を作成する
申請書は法務局のホームページまたは窓口で入手することができます。

(3)管轄の法務局に申請の予約をする
申請する法務局は次の3つの場所を管轄する法務局の中から選ぶことができます。
・遺言者の住所地
・遺言者の本籍地
・遺言者の所有する不動産の所在地

(4)遺言者本人が法務局に行き申請を行う
申請できるのは遺言者本人に限られます。親族あるいは弁護士等による代理申請は認められていません。

申請時に必要な書類

・作成した自筆証書遺言書
・保管申請書
・本籍地記載の住民票(3ケ月以内のもの)
・本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)

申請に掛かる手数料

申請に掛かる費用は3,900円で、申請書に印紙を貼付します。

(5)保管証を受け取る
遺言書の保管が受理されると、遺言者の氏名、生年月日、保管所の名称、保管番号が記載された保管証が発行されます。

3.保管の期限

遺言書の現物は遺言者の死後50年間、遺言書に係る情報(スキャナーで読み込んだデータ等)は遺言者の死後150年間保管されます。
また、遺言者の生死が不明な場合は、遺言者の出生の日から120年経過すると削除されます。

4.保管した遺言書の撤回(返還)

保管されている遺言書を返してほしい場合は、遺言者本人が申請の撤回をすることで返還されます。
返還された遺言書は無効になる訳ではなく、そのまま自分で保管しておいても有効な遺言書になります。

5.保管した遺言書の内容変更

一旦保管した遺言書の内容を変更するには、次の2つの方法があります。

(1)保管の申請を撤回して遺言書を返還してもらい、内容を変更した遺言書の保管の申請を新たに行う

(2)保管の申請を撤回しないで(前の遺言書の返還を受けないで)、新たに遺言書の保管申請を行う(前の遺言書を保管申請した法務局と同一の法務局に申請する場合のみ可能)

遺言書が複数ある場合は、作成日付の新しいものが有効になるため、(2)の方法でも間違いではありませんが、できるだけ問題の発生を防ぐためには、(1)の方法がお勧めです。

6.保管した遺言書の閲覧

遺言者が生きている間は、遺言者のみが閲覧を請求することができます。
相続人や受遺者は、相続開始後(遺言者の死亡後)に遺言書の閲覧申請が可能になります。

7.相続発生後(遺言者の死後)の相続人の対応

(1)遺言書保管事実証明書

遺言者(被相続人)から遺言書を保管していることを聞かされていれば、すぐに相続人は法務局に行って遺言書の閲覧等ができますが、保管しているかどうかが不明である場合は、まずは遺言書保管事実証明書の請求をすることになります。

遺言書保管事実証明書を相続人が請求することで、被相続人の遺言書の保管有無を確認することができます。
ただし、遺言書保管事実証明書は、保管の有無を証明するだけで、遺言書の内容までは確認できません。

(2)遺言書情報証明書

相続人は、遺言書が保管されていることが分かれば、先に記載したように法務局で閲覧することができます。
しかし、持ち帰ったりすることはできませんので、じっくり内容を検討したいといった場合には「遺言書情報証明書」を請求します。

遺言書情報証明書には次の事項が記載されます。
1.遺言書の画像情報
2.遺言書に記載されている作成年月日
3.遺言者の氏名、出生年月日、住所および本籍
4.受遺者の氏名、住所
5.遺言執行者の氏名、住所
6.遺言書の保管を開始した年月日
7.遺言書が保管されている法務局および保管番号

この証明書は自筆遺言書に代わる書面として、不動産登記手続きや預貯金の払い戻し等の相続手続きに使用することができます。

遺言書情報証明書は、遺言書と同等の効力を持ちますので、請求できる人は次の関係相続人等に限定されています。
1.遺言者の相続人(相続欠格者、被廃除者、相続放棄をした者を含む)
2.受遺者
3.遺言で認知するとされた子
4.遺言で廃除する意思を表示された相続人
5.遺言で指定された遺言執行者
6.遺言で遺言執行者の指定を委託された第三者

8.法務局の通知

次の3つの場合には、法務局が遺言書を保管していることを関係相続人等に通知することになっています。

(1)閲覧の請求があった場合

遺言者の死亡後、関係相続人等から遺言書の閲覧請求があった場合、法務局はその他の関係相続人等に対して、遺言書が保管されている旨の通知を行います。

(2)遺言書情報証明書を発行した場合

遺言者の死亡後、関係相続人等から遺言書情報証明書の請求があり、これを発行した場合、法務局はその他の関係相続人等に対して、遺言書が保管されている旨の通知を行います。

(3)死亡時の通知の申出をした場合

遺言者は遺言書の保管の申請時に、任意で「死亡時の通知の申出」をすることができます。
この申出があると、遺言者の死亡届けが市区町村役場等に提出されると、法務局にその情報が提供され、法務局から通知が行われます。
通知の対象者は、相続人、受遺者、遺言執行者等のうち1名のみを指定することができます。

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