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死因贈与契約とは~遺贈との共通点・相違点

「死んだら○○をあげる」と相手と約束することを「死因贈与」といいます。同じようなものとして、遺言により贈与する「遺贈」があります。死因贈与には、この遺贈に関する多くの規定が適用されます。もっとも、死因贈与は当事者間の契約であり、遺贈能力や遺贈の方式、承認・放棄に関する規定は適用されません。
ここでは死因贈与と遺贈の共通点、相違点についてみていきます。

遺贈とは何か

死因贈与契約とは~遺贈との共通点・相違点

目次

1 死因贈与の契約性

死因贈与とは、贈与者(贈る人)の死亡によって効力を生じる贈与契約です。贈与者の死亡によって効力を生じる点で、遺言者の死亡によって効力を生じる遺贈と共通します。しかし、死因贈与は贈与者と受贈者(もらう人)の間の契約であり、贈与者の「死んだらあげます」という死因贈与の申込みと、受贈者の「もらいます」という承諾という意思表示の合致が必要な点で、遺言者が単独で行う遺贈とは異なります。
死因贈与は、遺贈のとの共通点があることから、原則として民法の遺贈に関する規定を準用するとされていますが、贈与者と受贈者との契約であることの性質から遺贈に関する規定が準用されない場合もあります。どの規定が準用されるかは解釈に委ねられています。

2 死因贈与と遺贈の共通点

死因贈与は、その性質上準用の余地がないものを除き、遺贈に関する規定が準用されます(民554)。
特に問題となり得るものとしては次のものがあります。

(1)受贈者の死亡

遺贈の場合、遺言者が死亡し遺言の効力が発生する以前に受遺者が死亡してしまうと、遺贈は効力を生じないとされています(民994①)。死因贈与において、受贈者が贈与者の死亡する以前に死亡したときに、民法994条1項が準用されるかについては争いがあります。
裁判例においても結論が分かれており、死因贈与においても民法994条1項の規定が準用され、受贈者が死亡した時点で死因贈与の効力が失われると判断した事案がありますが(東京高判平15.5.28)、一方で、死因贈与の場合には、受贈者の側に期待権が生じていることから、民法994条1項が準用されず、死因贈与は効力を生じるとの判断をした裁判例もあります(京都地判平20.2.7)。

(2)撤回

死因贈与による処分は、遺贈の場合と同様、贈与者の意思を尊重しなければならないことから、贈与者の自由な撤回が認められるべきといえます。
判例も死因贈与には、「(遺言者は遺言をいつでも撤回できるとした)民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されるべきである」としています(最判昭47.5.25)。
もっとも、常に贈与者の自由な死因贈与の撤回が認められるかは問題です。「老後の面倒をみてくれたら○○を譲る」といったように、受贈者が何かを負担することを贈与の条件とし、その負担を行う時期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与において、受贈者が負担の全部又はこれに類する程度のことを行った場合、契約の全部又は一部を取り消すことがやむを得ないと認められる特段の事情がない限り、民法1022条(遺言の撤回)・1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)の各規定は準用されないとした判例があることから(最判昭57.4.30)、判例は原則として死因贈与は撤回できるが、特段の事情がある場合には撤回できないと判断をしているようです。

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(3)遺言執行

死因贈与に対して、遺言書の検認の規定(民1004)が準用されないことに争いはありませんが、遺言執行者の選任に関する規定(民1010以下)が準用されるかは争いがあります。裁判例も、準用を肯定するもの(名古屋高決平元.11.21等)と準用を否定するもの(東京家審昭47.7.28)とに分かれています。受遺者の利益を保護し、遺言者の最終意思の実現を図るという遺言執行者制度の趣旨は、死因贈与においても妥当することからすれば、準用を肯定するのが相当と考えられます。

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(4)遺留分侵害額請求

遺留分を侵害する内容の死因贈与がなされた場合、遺贈の場合と遺留分権利者を保護するべき状況に変わりはないことから、遺留分侵害額請求の対象となります。死因贈与に限らず、生前贈与であっても相続開始前の1年間にしたもの、1年以上前に贈与をしたものであっても当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした場合には、遺留分侵害額請求の対象となります(民1044①)。また、生前に相続人に対する贈与がなされた場合には、1年以上前に贈与がなされたものであっても、相続開始前の10年間に行われた婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限って遺留分に算入されます(民1044③)。

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3 死因贈与と遺贈の相違点

(1)方式

遺贈は法定の方式に従わなければなりませんが、死因贈与には贈与契約の一種であり、その方式に定めはないことから、遺言の方式に従う必要はありません。口頭での約束等、書面によらない死因贈与も有効です。

(2)能力

遺言は、15歳に達すれば単独ですることができます。
一方、死因贈与は契約であることから、未成年者が行う場合には親権者の同意を得て、又は親権者が代理して行わなければなりません。

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(3)承認・放棄

死因贈与は、贈与者と受贈者との間の契約であり、贈与者の単独の意思のみではなし得ず、受贈者の意思に基づき締結されるものであることから、相続の承認・放棄に関する規定は適用されません。

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(4)書面によらない贈与

遺言は法定の方式によらなければならず、原則として書面によってなされなければなりません。一方、死因贈与は遺贈の一種であり、書面によらない死因贈与も有効です。そして、書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き、いつでも解除ができるとされています。贈与者が生存中はもちろんのこと、贈与者が死亡した後であっても相続人や相続財産管理人は書面によらない贈与であることを理由として、死因贈与を撤回することができます。

4 死因贈与の無効

死因贈与は贈与契約の一種ですから、他の契約と同様に取り消しや無効事由によりその効力を失います。また、公序良俗違反の死因贈与も無効にとされます。
裁判例では、死因贈与が贈与者と受贈者との不倫関係を継続するためになされたものである場合について、公序良俗に反し無効であるとの判断をしたものがあります(東京地判昭39.5.26)。この点、遺贈であっても公序良俗に反する遺贈は無効とされることは死因贈与の場合と同様です。

5 最後に

死因贈与は、その方式に限定がないことから、書面によらず口頭で死因贈与を行うここもできます。もっとも、書面によらない死因贈与はいつでも取り消すことができますし、死因贈与の効力が生じるのは贈与者が死亡したときであることから、書面が存在しない場合には、贈与合意の事実やその内容について争いが生じることも考えられます。したがって、確実に死因贈与を行いたいのであれば、書面で死因贈与契約を締結しておくことが必要です。

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