自筆証書遺言書を訂正する方法は、法律(民法)により厳格に要件が定められています。遺言の内容を訂正するためには、訂正箇所を二重線などで抹消して訂正をした上で、①遺言者が、②訂正の場所を指示し、訂正した旨を付記して、③付記部分に署名して、④訂正の場所に印を押さなければなりません。
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作成した遺言の加除(文字の追加や削除)、訂正の方法は民法で次のように定められています。
民法第968条3項
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
これらの要件を満たさない遺言の変更は効力を生じません。作成された遺言書の偽造や変造を防止し、遺言者の真意を確保するために、遺言の訂正の要件は厳格に定められています。
遺言書作成後の訂正だけでなく、遺言書作成過程での訂正であっても法定の訂正の方式に従わなくてはなりません。
遺言の訂正する場合には、遺言書のを作成した本人が訂正をしなければなりません。遺言者以外の人が訂正をしても、その訂正には効力が生じません。
遺言を訂正した場合、どの部分を訂正したかを指示した上で、遺言を訂正したことを付記しなければなりません。
付記をする場所は、訂正した行の欄外でも、遺言書の末尾でも構いません。訂正した行の欄外に記載する場合には、「本行2字訂正」とか「本行1字加入」などと記載します。遺言書の末尾に記載する場合には、「本遺言書の○行目2字訂正」とか「本遺言書の○行目1字加入」などと記載します。また「本遺言書○行目中『100万円』との記載を『200万円』と訂正した」という記載をしても構いません。
重要なのは、どの部分を訂正したのかを明示した上で、訂正、加入、削除したことを付記する必要があるということです。
遺言を訂正するには、上記(2)において付記した部分に署名しなければなりません。訂正した行の欄外に「本行2字訂正」と付記した場合には、その部分に、遺言書の末尾に「本遺言書の○行目2字訂正」と付記した場合には遺言書の末尾に署名をしなければなりません。
通常文書を訂正する場合は訂正箇所に訂正印を押すというのが一般的で、署名までは必要とされていませんが、遺言書の訂正の場合には、署名まで要求されていることに注意が必要です。
署名は、氏と名を併記してフルネームをきさいすることが望ましいでしょう。
また、遺言書作成時の署名と異なる署名をすることは、訂正の効力に争いを生じさせる可能性があるので避けるべきです。例えば、遺言書作成時には戸籍上の氏名を用い、遺言書訂正時には通称名を用いることは、遺言者との同一性が立証できれば、その訂正は有効とされますが、遺言書の訂正の効力に無用の争いを生じさせる可能性があるため避けるべきでしょう。一方、結婚や名の変更等の理由により遺言時の氏名に変更を生じた場合には、その変更が戸籍等で確認できる限り、遺言者との同一性の立証が容易であるため、遺言書訂正時の氏名を用いても問題ありません。
遺言の訂正をする場合、訂正箇所を二重線などで抹消して、その部分に押印をしなければなりません。
訂正の際に用いる印鑑は、遺言作成時に使用した印鑑を用いるのが適切です。印鑑の紛失などやむを得ない事情がある場合には、遺言書作成時とは別の印鑑を用いざるを得ませんが、訂正の効力に争いが生じてしまう可能性があるため、遺言書の訂正ではなく、新たな遺言書を作成してしまうのも一手段と考えられます。
遺言の訂正は、遺言者自身によってなされる必要があり、遺言者以外の者が訂正をしても、それは単なる改ざん行為であり、訂正の効力は生じません。
しかし、改ざんがなされた場合であっても、形式上訂正の要件を満たしている場合には、改ざんが遺言者以外の者によって行われたことを立証しなければ、訂正として有効と判断されてしまうおそれがあります。そのような事態が生じないよう作成した遺言書は封筒に入れ糊付けをした上で大切に保管することが必要です。
遺言の加除、訂正をするための要件は厳格で、どれか1つの要件を欠くだけで加除、訂正の効力は生じないことになります。特に一般の慣行としては、文書の訂正に署名までは必要とされていないことから、訂正の際に署名をすることを欠かさないよう注意する必要があります。そのため、軽微な修正はともかく、大幅に加除、訂正する場合には、遺言の変更の方法によらず、遺言書を作成し直した方が確実であるといえます。