人が亡くなって相続が開始すると、被相続人(亡くなった人)の財産は、一旦共同相続人(相続人全員)の共有財産となり、遺産分割の手続きを経て各相続人に配分されます。
そして、遺産分割の対象となる相続財産は、『遺産分割時に存在する財産』とするのが原則になります。
しかし、中には遺産分割前に、一部の相続人が他の相続人の知らない間に無断で相続財産を処分してしまうことがあります。そのような場合の遺産分割はどのようになるのでしょうか。
目次
被相続人A、相続人は長男と次男、相続財産は預金3,000万円の場合で、遺産分割前に長男が勝手に1,000万円を引き出して自分の借金返済に使ってしまったケース。
前述のように、『遺産分割時に存在する財産』が遺産分割の対象になるため、相続発生後に遺産分割されるまでの間、一部の相続人が財産を処分してしまった場合、その財産は遺産分割の対象にはなりませんでした。
事例のケースの遺産分割では、長男、次男ともに次の配分になります。
遺産分割開始時に存在する財産2,000万円(3,000万円-1,000万円)×1/2=1,000万円
これでは、勝手に預金を引き出した長男は、合わせて2,000万円を遺産から得たことになり、次男からすると、到底納得できないことになります。
次男としては、長男による預金の引き出しが行われなかった場合に受けるはずであった相続分1,500万円(3,000万円×1/2)との差額500万円を取り戻すためには、長男を相手に訴訟をするしかありませんでした。
こうした相続人間の不公平を減らすため、2018年7月に民法が改正されました。
施行日の2019年7月1日以降に発生した相続については、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、全員の同意により、その処分された財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができるようになりました。その際に、財産を処分した相続人の同意を得る必要はありません。
例のケースでは、財産を処分した長男を除く相続人である次男の判断により、次の遺産分割を行うことになります。
遺産分割時に存在する財産2,000万円+遺産分割前に処分された財産1,000万円=遺産分割の対象財産3,000万円
遺産分割による長男および次男の相続分:3,000万円×1/2=1,500万円
実際に受け取る金額(具体的相続分)
長男:1,500万円-1,000万円=500万円
次男:1,500万円-0円=1,500万円
また、長男の具体的相続分がマイナスになるような場合(例えば遺産分割前に2,000万円を処分していたような場合)、次男に対しマイナス分を支払うよう家庭裁判所の審判で命ずることができます。
これまでのように裁判所に訴訟を起こす必要はなくなり、手続きの簡略化やリスクが低減されることになりました。
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