終活・相続・遺言・家族信託の行政書士下山たかし事務所
事務所:045-517-8350
営業時間: 9:00~18:00(月~金)

遺産分割協議の対象にならない相続財産

相続が開始すると、被相続人(亡くなった人)の財産は、一部を除いてすべて相続人に引き継がれます。

相続人が複数いる場合は、遺産分割の手続きを経て各相続人の具体的相続分が確定するまで、共同相続人(相続人全員)の相続分に応じて、共同相続人全員による共有となります。

ただし、すべての相続財産が遺産分割の対象になる訳ではありません。
その代表例は「可分債権」と「可分債務」があります。

被相続人が貸していたり借りていたお金の扱いはどうなるか

目次

1.可分債権(お金を貸していた場合など)

可分債権とは、分けることのできる債権のことです。
代表的なものは、貸金債権や損害賠償請求権などの金銭債権です。例えば100万円の貸付金があり返済期限が来ていたとすれば、50万円と50万円に請求権を分けることができます。

そして可分債権については、遺産分割の対象とはならず、相続発生と同時に、各相続人は法定相続分に応じて承継(引き継ぐこと)されるものとして扱われます。

可分債権であっても、共同相続人全員が、それを遺産分割の対象にすることについて合意すれば、遺産分割の対象とすることはできます。
しかし、そのままでは遺産分割の結果について債務者に対して対抗(主張すること)できませんので、債権譲渡の通知を債務者に対して行う必要があります。

2.預貯金債権(銀行に預けた預貯金)

ここで注意しなければいけないのは、預貯金債権(金融機関に対して預金・貯金の払い戻しを請求する債権)の扱いです。
預貯金債権は可分債権ではありますが、最高裁判所の判例(最大判平成28/12/19)により、他の可分債権と異なり、遺産分割の対象になるとされています。

したがって、預金債権は遺産分割をしなければ、各相続人の相続分に応じた預貯金の払い戻しはできないことになります。
そうすると、被相続人と生計を共にしていた相続人が預貯金から生活費を引き出せなくなったり、目先の葬儀費用や相続債務の返済に使えないといった問題が発生します。

このため、各共同相続人は預貯金債権の一部について、遺産分割前であっても払い戻し請求ができるようになっています。
各共同相続人は、相続財産に属する預貯金債権のうち、その相続開始時の債権額(預貯金額)の1/3に、各共同相続人の相続分を乗じた額については、それぞれが単独で払い戻し請求ができます。ただし金融機関ごとに150万円が上限になります。

3.可分債務(お金を借りていた場合など)

借入金や住宅ローンなどの債務(マイナス財産)も相続の対象になります。
そして相続債務が金銭債務のような可分債務(分けることができる債務)については、相続開始と同時に各相続人に相続分に応じて分割承継されることになり、遺産分割の対象にはなりません。

しかし、共同相続人間で遺産分割を通じて合意すれば、不動産を承継した相続人が残った住宅ローンの返済をすべて負担したり、事業を引き継いだ相続人が、事業用の資産を取得する代わりに、事業に関連する債務も単独で承継するようなことができます。

また、相続人の一人に対して財産全部を相続させる遺言がされた場合は、特別な事情がない限り、その相続人が相続債務もすべて承継したものとされます。

ただし、このような遺産分割協議や遺言は、あくまでも相続人の間でのみ有効となります。
被相続人に対してお金を貸していたなどの相続債権者に対しては、その同意がなければ遺産分割協議や遺言の効力は及びません。
法的には、相続債務は法定相続分に応じて各相続人に分割帰属していることから、各相続人は相続債権者から法定相続分にしたがった相続債務の履行(貸金の返済など)を請求された場合は、これに応じる義務があります。
相続債権者からの相続債務の履行に応じた結果、その相続人が遺産分割協議や遺言で定められた以上の負担をした場合には、その分を負担すべきであった相続人に対して請求することができます。

相続債権者が、遺産分割協議や遺言の内容に同意しその内容に応じた請求をするか、あくまでも法定相続分に応じた請求をするかは、相続債権者の選択にゆだねられています。

関連ブログ
 亡くなった親の借金の相続はどうなるか