夫が亡くなって、妻と子が相続する場合、妻と子で遺産を分け合うことになります。この時に、妻はこれまで住み慣れた家を相続する代わりに預貯金の相続ができなかったり、家を出ていかなければならないことがあります。
その様なケースに妻(配偶者)を保護する仕組みとして「配偶者居住権」があります。
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例えば、夫が亡くなり、相続人が妻と子の二人、相続財産(遺産)は自宅2,000万円および預貯金2,000万円の計4,000万円で、遺言書がない場合。
法律に従った相続分は、それぞれ相続財産の1/2ずつ、つまり2,000万円ずつになります。
妻が自宅を取得すると、預貯金はすべて子に渡り、妻の手元には生活費が残りません。
逆に子が自宅を取得すると、妻は預貯金を得ることができますが、子がすぐに自宅を売却してしまったりすると、妻は自宅に住み続けることができないことになります。
このような場合に、妻(配偶者)を保護する制度が「配偶者居住権」になります。
配偶者居住権とは、夫が所有していた自宅に住んでいた妻(配偶者)は、自宅を相続しなくても、そのまま住み続けられる権利です。もちろん夫と妻は逆でも同じです。
残された配偶者が、被相続人(亡くなった人)の所有していた建物に無償で住んでいて、次のような場合には配偶者居住権を取得することができます。
・遺産分割により配偶者に配偶者居住権が認められた
・被相続人が配偶者に配偶者居住権を認める遺言を残したり、生前に配偶者居住権を与える約束をしていた
・配偶者が配偶者居住権の取得を希望して家庭裁判所に申し出て、家庭裁判所がこれを認めた
配偶者居住権が効力を持つには、居住する建物の登記簿謄本に登記をしなければなりません。登記が完了すると配偶者は終身(亡くなるまで)自宅に住むことができます。
遺産分割を行う場合には、配偶者居住権そのものに財産的価値があることから、配偶者はその財産的価値(配偶者居住権の価値)を相続したものとして扱われます。
そして自宅を相続し所有権を得た相続人は、配偶者居住権が消滅すると推定される時期(配偶者が平均余命で亡くなると仮定した時期)の建物敷地の価値を算定し、それを現在価格に置きなおした価値(負担付所有権の価値)を相続したものとして扱われます。
配偶者居住権の価値=建物敷地の現在価値-負担付所有権の価値
75歳同年齢の夫婦の夫が亡くなり、35年前に購入した夫名義の土地建物のその時点での価値が4,200万円とした場合。
配偶者居住権の消滅時の建物の価値=0円
75歳女性の平均余命が15.76歳から15年後の建物の価値
負担付所有権の価値=土地の価格を法定利率3%で15年分割り戻した額=2,700万円
配偶者居住権の価値=建物敷地の現在価値4,200万円-負担付所有権の価値2,700万円=1,500万円
冒頭の例で、配偶者居住権の価値が1,000万円と評価されたとすると、負担付所有権の価値は1,000万円となり、妻が配偶者居住権1,000万円と預貯金1,000万円を取得し、子は負担付所有権1,000万円と預貯金1,000万円を取得するので、妻は住む場所もあり、当面の生活費も確保できることになります。