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相続対策 税負担無く相続財産を残す方法 遺言による遺産の寄付

遺言によって財産を寄付(遺贈)した場合に、その相手先によって相続税の対象から除外されることがあります。また、受遺者(寄付を受けた者)が公益法人等の場合には一定の要件を満たしていれば、受遺者にも課税が起きないことから、税負担無く相続財産を残すことが可能となります。

相続対策 税負担無く相続財産を残す方法 遺言による遺産の寄付

目次

1.遺言により遺産を寄付する場合の5つのポイント

ポイント1 法人に対する遺贈は原則相続税が課税されない

相続税の納税義務者は相続又は遺贈により財産を取得した個人であるため、遺言による寄付先が法人の場合には原則として相続税が課税されません。

ポイント2 遺贈を受けた法人が公益法人の場合、法人税が課せられない

遺贈による寄付を受けた法人は原則としてその財産の価額を益金の額に算入するため、法人税の課税対象となります。
ただし、その法人が公益法人等に該当する場合には、寄付を受けた財産に対して法人税は課税されません。

ポイント3 公益事業を行う個人に対する遺贈は相続税が課せられない

個人に対する寄付は遺言によるものであっても遺贈になりますので、相続税の課税対象になります。
ただし、その個人が公益を目的とする事業を行うものとして一定の要件を満たしており、その遺贈により取得した財産がその公益事業のために使われることが確実であるときは、相続税は非課税となります。

ポイント4 遺言による寄付も遺留分算定の対象になる

遺言による寄付をした場合でも、その寄付財産が法定相続人の遺留分を侵害するときは、寄付を受けた受遺者に対して遺留分権利者から遺留分侵害額請求権を行使される恐れがあります。

ポイント5 土地、建物等を法人に遺贈した場合に被相続人に譲渡所得税が課税される場合がある

遺言によって法人に寄付をする場合、寄付財産が土地・建物等の譲渡所得の対象となる財産であるときには、これらの財産は寄付時の時価により譲渡があったものとみなされ、これらの財産の取得時から寄付時までの値上がり益に対して所得税が課税されます。
この場合、被相続人(遺言者)の譲渡所得となるため、相続人が被相続人の準確定申告を行って納税する義務が生じます。
ただし、当該寄付が一定の要件を満たす公益法人等に対するものであるときは、この所得税について非課税とする制度があります。

2.個人に対する寄付

遺言により「法定相続人以外の個人に寄付をする」とした場合でも、その寄付を受けた個人は遺贈により財産を取得した者として、相続税の納税義務を負います。
ただし、その個人が宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で、下記の要件に該当するときは、その遺贈により取得した財産でその公益を目的とする事業のために使われることが確実なものは、相続税の非課税財産に該当し、相続税の課税価格に算入されません。

<非課税となる公益事業者の要件>

次にあげる事業活動により文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するところが著しいと認められるものを行う者であること。

  • 社会福祉法に規定する社会福祉事業
  • 更生保護事業法に規定する更生保護事業
  • 児童福祉法に規定する家庭的保育事業、小規模保育事業又は事業所内保育事業
  • 学校教育法に規定する学校又は就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律に規定する認定こども園を設置し、運営する事業
  • その他の宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業

ただし、寄付を受ける受遺者若しくは遺言者・受遺者と特別な関係にある者が、その事業に関連して特別の利益を得る事実がない場合に限られます。

3.法人に対する寄付

相続税の納税義務者は個人であるため、遺言により「法人に寄付をする」とした場合、その寄付を受けた法人は、相続税の納税義務を負いません。
一方、その法人は無償による資産の譲受けについて、その引渡しの時における価額を収益の額として、法人税の課税対象となります。
ただし、公共法人、公益法人等(学校法人、一般社団法人等、社会福祉法人、宗教法人、公共法人に含まれない各種の事業団等)については、その寄付について法人税の課税は発生しませんので、相続税・法人税の負担なしに財産を残すことができます。

法人に対する遺贈(寄付)を行う場合、次の事項について注意をする必要があります。

①同族会社等の行為計算の否認

その遺贈により、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更生又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができます。

②法人に対するみなし譲渡

法人に対して土地・建物等の譲渡所得の起因となる資産の遺贈が行われたときは、そのときの時価で譲渡されたものとみなされ、その遺贈財産に含み益があれば、遺贈した者に譲渡所得税の課税が起こります。
遺言の効果は遺贈者の死亡により生じますから、遺贈者の相続人は相続開始を知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告を行い、その納税義務を負わなければなりません。
ただし、国・地方公共団体への遺贈、又は公益法人等(公益社団法人、公益財団法人)、特定一般法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人、特定非営利活動法人その他の公益を目的とする事業を行う一定の法人に対する財産の遺贈で、当該遺贈が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すること、当該遺贈に係る財産が、当該遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、当該公益法人等の公益目的事業の用に直接供され、又は供される見込みであることその他一定の要件を満たすものとして国税長官の承認を受けたものについてはその遺贈がなかったものとみなされますので、譲渡所得課税は発生しません。
また、公益法人等のなかには換価や活用の観点から、不動産の遺贈を受け付けない団体もあるようですので、事前に寄付先との協議をしておくことが肝要です。

4.遺贈による遺留分侵害

遺言により財産を寄付した場合において、その遺贈が他の相続人の遺留分を侵害することとなるときは、寄付を受けた者(法人を含みます。)に対して遺留分侵害額請求権を行使される恐れが生じます。
遺留分侵害額請求権とは、遺留分権利者及びその承継人が受遺者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる権利ですが、遺留分額の算定等で争いに発展するケースが多く見受けられます。遺産を公益の用に供することを目的とした遺言が元で、公益団体が相続人との争いに巻き込まれるような事態もあり得ますので、遺言の作成時には配慮が必要です。

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