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亡くなった配偶者の家に住み続けることができる配偶者居住権の活用事例

配偶者居住権とは、配偶者が所有している家(土地・建物)に同居しているもう一方の配偶者が、家の所有者である配偶者が亡くなり、事情により家の所有権を別の相続人が相続した場合でも、残された配偶者がその家に無償で住み続けることができる権利のことをいいます。
ここでは配偶者居住権を活用した相続の事例をみていきます。

配偶者居住権の詳細については、次の記事を参照ください。
夫が亡くなっても今の家に住み続けられる? 配偶者居住権とは

亡くなった配偶者の家に住み続けることができる配偶者居住権の活用事例

目次

【事例】

Aさんは、夫が亡くなり相続を開始しました。相続人は妻であるAさん(70歳)と、夫の先妻の子Bさんの二人です。相続財産は夫婦が同居していた自宅の土地建物(相続税評価で土地4,500万円、建物500万円(木造:築15年))と、銀行預金5,000万円で合計1億円です。Aさん、Bさんとも相続税評価額を基に算定した法定相続分1/2による遺産分割を望んでいます。Aさんは長年住み慣れた自宅での生活を維持したいと考えていますが、Bさんとの折り合いが悪く、Bさんが自宅を相続すると退去を迫られるのではないかと心配しています。一方、Aさんが自宅を相続してしまうと、預金を相続することができなくなり、今後の生活が成り立たなくなってしまいます。さらにAさん、Bさんとも、土地建物を共有とすることは望んでいません。

1.配偶者居住権

2020年4月1日以降に発生する相続について、配偶者居住権が創設され、被相続人の配偶者は自宅の所有権と切り離して、自宅に居住し続ける権利を得ることができるようになっています。

2.事例における対応

(1)配偶者居住権の取得

この事例では遺産分割協議により、Bさんが自宅不動産の所有権、Aさんが配偶者居住権を取得(設定)することにより、Aさんは自宅に居住し続けることができ、さらに預金の一部を取得することが可能になります。
また、Aさんが亡くなったときには配偶者居住権は消滅し、Bさんは自宅不動産の使用収益をすることが可能になります。

(2)具体的な評価方法(終身の場合)

①建物の評価

(ア)配偶者居住権(Aさんの権利評価額)

500万円-500万円×((18-20(※1))÷18(※2))×0.554(※3)=500万円

※1 存続年数 配偶者居住権が設定された時の属する年の1月1日現在において公表されている「完全生命表」のうち最新のものによる70歳(女)の平均余命:19.85(6カ月以上の端数切り上げ)
※2 残存耐用年数=法定耐用年数22年×1.5-15年=18年
※3 存続年数(20年)に応じた民法の法定利率(3%)による権利現価率:0.554

(イ)居住建物の所有権(Bさんの権利評価額)

500万円-500万円(ア)=0

②土地等の評価

(ア)配偶者居住権に基づく居住建物の敷地利用権(Aさんの権利評価額)

4,500万円-4,500万円×0.554(※3)=2,007万円

(イ)居住建物の敷地所有権(Bさんの権利評価額)

4,500万円-2,007万円(ア)=2,493万円

(3)法定相続分による預金の取得

遺産分割を上記(2)の評価に基づき行う場合、Aさんが取得する配偶者居住権及びその敷地利用権の価額は

500万円+2,007万円=2,507万円

となり、法定相続分の5,000万円までに達するまでの2,493万円を預金により取得することが可能になります。

(4)小規模宅地等の特例

配偶者が取得した敷地利用権については、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。