被相続人(亡くなった人)から一部の相続人に対して、生前に行われた贈与や、遺言による贈与(遺贈)があった場合の遺産分割については、どのように扱われるのでしょうか。
目次
贈与や遺贈などを特別な受益(特別受益)として考慮した上で算定される相続分のことを具体的相続分といいます。
また、被相続人の事業に協力したり、被相続人のことを介護・看護するなどして被相続人の財産の維持・増加に寄与した(貢献した)者がいた場合には、これらの寄与を考慮して具体的相続分を算定することになっています。
(1)遺贈
遺贈(遺言による贈与)は常に特別受益として扱われます。
(2)生前贈与
婚姻・養子縁組のため、もしくは生計の資本としてなされた贈与は特別受益となります。
婚姻・縁組のための贈与の例(特別受益)
持参金、支度金
婚姻・縁組のための贈与にはあたらない
通常の結納金、挙式費用
生計の資本としての贈与の例(特別受益)
独立資金、住居や農地の贈与
生計の資本としての贈与にはあたらない
扶養・養育に必要な費用
(3)高等教育費用・留学資金
一般常識に照らして相当なのものであれば特別受益にはあたりません。
ただし兄弟姉妹間で著しい不公平が生じる場合には、特別受益として扱われることがあります。
例えば、長男は私立大学に進学し、長女は中卒で働き始め、長男の学費のために給与の半分を被相続人に渡していたような場合は、長男に特別受益があったと考えられます。
(4)債務の支払い
被相続人が相続人の借金の肩代わりをして支払いを行い、相続人が支払っていないような場合には、相続分の前渡しとして生前贈与にあたります。
(5)土地・建物の無償使用による利益
被相続人の土地に相続人の一人が家を建て、土地を無償で使用している場合や、被相続人が建てた二世帯住宅に相続人の家族が住んでいる場合など、こうした無償使用は特別受益にあたる場合があります。
(6)生命保険
一般的に生命保険は相続財産にあたりませんが、保険金の受取人である相続人とその他の相続人の間に間に生ずる不公平が極端に大きい場合などは、特別受益として扱われることがあります。
(7)死亡退職金などの遺族給付
生命保険と同様に扱われ、通常は特別利益になりませんが、相続人間の公平性が極端に著しいものと評価されると特別利益になる場合があります。
特別受益とされた財産の評価は、相続開始時の価格で行われます。
10年前に贈与された土地・建物が、10年前の価格で1,000万円であっても、相続開始時の評価額が1,500万円になっていれば、1,500万円の特別受益として扱います
(1)一般的な場合
①(相続開始時の相続財産価額)+(特別受益額)=みなし相続財産額
②(みなし相続財産額)×(法定または指定の相続分)=一般の具体的相続分額
③(一般の具体的相続分額)-(特別受益額)=特別受益者の具体的相続分額
具体例
被相続人A、相続人は配偶者B、子C・D
遺産額5,000万円
Aは生前、Cに土地1,000万円を贈与していた場合
①みなし相続財産
5,000万円+1,000万円=6,000万円
②各自の一般的相続分額
B:6,000万円×1/2=3,000万円
C・D:(6,000万円×1/2)×1/2=1,500万円
③各自の具体的相続分額
B:3,000万円
C:1,500万円-1,000万円=500万円
D:1,500万円
(2)特別受益が一般的相続額を超えていた場合
特別受益者の一般的相続分額から特別受益額を差し引いた額がマイナスとなったとしても、受益者はその分を返す必要はありません。
具体例
先の例で、Cに生前贈与した土地の評価額が相続開始時に2,000万円になっていた場合。
①みなし相続財産
5,000万円+2,000万円=7,000万円
②各自の一般的相続分額
B:7,000万円×1/2=3,500万円
C・D:(7,000万円×1/2)×1/2=1,750万円
③計算上の各自の具体的相続分額
B:3,500万円
C:1,750万円-2,000万円=-250万円 ⇒マイナスは0円とみなす
D:1,750万円
④最終的な各自の具体的相続分額
相続開始時の遺産額を計算上の各自の具体的相続分額の比率で分けます
B:5,000万円×(3,500万円/5,250万円)=約3,333万円
C:5,000万円×(0円/5,250万円)=0円
D:5,000万円×(1,750万円/5,250万円)=約1,667万円
持戻しの免除とは、被相続人が特別受益を相続財産に加えず、また贈与・遺贈の額を具体的相続分額から差し引かない意思表示をすることを言います。
特別受益の持戻し免除があると、特別受益の価額を相続財産に加えることはありません。
持戻し免除の結果、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求権を行使することができます。
持戻し免除の意思表示の形式に指定はありません。
書面や口頭での明示が無い場合でも、贈与や遺贈の経緯、その他の事情を総合的に判断して、黙示の持戻し免除の意思表示が認めれれることがあります。
しかし、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産について遺贈または贈与したときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定され、具体的相続分の計算に際して特別受益として加算されません。
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