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相続対策 遺言の活用事例

相続対策としては様々な手段・方法がありますが、遺言の利用は最も代表的な方法といえます。ここでは遺言のなかでも手続きが簡単な自筆証書遺言を用いた活用事例を、失敗事例も含めて見ていきたいと思います。

相続対策 遺言の活用事例

目次

事例1 子が無く法定相続人が妻と兄弟姉妹の場合

Aさんには妻Bさんがいますが、二人の間には子がいません。Aさんの財産は、Aさんと妻Bさんが住む自宅不動産甲(5,000万円)と預貯金(1,000万円)があります。
Aさんの両親はともに死亡していますが、Aさんには、兄Cさんと弟Dさんがいます。

このような事例において、Aさんはどのような対策をとっておくとよいでしょうか。

法定相続分での相続(遺言が無い場合)

この事例において、Bさんよりも先にAさんが死亡した場合、法定相続人は配偶者であるBさんと兄Cさん、弟Dさんになります。法定相続分は、Bさんが4分の3、Cさんが8分の1、Dさんが8分の1となります。
BさんがAさんの死亡後も自宅不動産に住み続けるため、甲不動産の取得を希望した場合、法定相続分を超える財産を取得することになり、Cさん又はDさんから1,000万円の預貯金の取得だけでなく、代償金の支払いを求められることも予想されます。
法定相続分での遺産分割協議において、Bさんは代償金の支払いのために不動産の売却を迫られたり、家はのこったものの今後の生活費を捻出できないという事態が懸念されるところです。

遺言による対策

この事例においては、妻Bさんの生活を安定させるために、Aさんが生前に「甲不動産を含む一切の財産を妻Bに相続させる。」という遺言書を作成しておくことが必要であると考えます。兄弟姉妹には遺留分が無いことから全部の財産を相続させることができるので、有効な対策といえるでしょう。

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事例2 相続人となる兄弟はいるが、内縁の妻に全財を渡したい場合

Aさんは、内縁の妻Bさんと生活を共にしており、Aさんの財産は、Bさんと同居している不動産、預貯金があります。Aさんには子がなく、両親も他界していますが、兄Cさんと弟Dさんがいます。
Aさんとしては、すべての財産をBさんに残したいと考えています。

遺言がない場合の相続

この事例では、Aさんは内縁の妻Bさんにすべての財産を残したいと思っていますが、内縁の妻は法律上の配偶者でなく、相続権が認められません。Aさんが遺言書を残さなかった場合は、兄弟のCさん、Dさんがすべての財産を取得することになるため、Bさんは居所から退去しなければならない事態となる可能性があります。

遺言による対応

この事例においては、Aさんは遺言を作成し、すべての財産をBさんに遺贈しておくことが有効な対策といえるでしょう。兄弟姉妹には遺留分がないため、これに対する配慮も必要ありません。
遺言の方式として、公正証書遺言、自筆証書遺言どちらの方法も可能です。円滑で確実な執行のため、遺言により遺言執行者を指定しておくのが望ましいですが、自筆証書遺言において、「すべての財産をBに遺贈する」という内容の遺言を残すことだけで大きく結論が異なる事例ですので、自筆証書遺言を活用できる事例といえるでしょう。

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事例3 自筆証書遺言の失敗事例① 遺留分に配慮しない遺言

Aさんには、長男Bさん、長女Cさん、二女Dさんがいますが、夫に先立たれた後、長男Bさん、長女Cさんそれぞれ独立して家庭を持ち生活しており、Dさんは、学校卒業後も仕事をせずAさんと同居していました。
Aさんは、Dさんの将来を案じ、Aさんが有する不動産、預金、株券等一切の財産をDさんに相続させる旨の自筆証書遺言を残して死亡しました。

BさんとCさんが遺留分侵害額請求をしてきましたが、遺言の内容通りに争いなくすべての財産をDさんに相続させることはできるのでしょうか。

解説

Aさんの遺言により、Dさんがすべての財産を取得することになりますが、子には遺留分があり、遺留分侵害額請求をされました。
そのため、これを巡って紛争が生じることになります。遺留分侵害額の算定において、不動産の評価が一致しないなど、協議により解決できない場合は、調停や訴訟に発展することになります。
自筆証書遺言は簡易に作成できる点にメリットがありますが、内容を吟味しないまま作成した場合には、かえって紛争を誘発する点に注意が必要です。

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事例4 自筆証書遺言の失敗事例② 押印の要件を欠き無効とされた事例

Aさんには、長女Bさん、二女Cさんがいますが、亡くなる2週間前に、入院中に記載していノートの一部に、「令和〇年〇月〇日、私Aは、すべての財産をC夫婦に委任します。B夫婦家族には如何なることがあろうと、私の権利の持ち分の財産等は分けないことを父の遺言と思いかたく守ること。」の記載をし、末尾にAさんの署名とAさんの苗字を〇で囲ったものの記載をしましたが、印鑑による押印は行われていません。

解説

自筆証書遺言では、①財産目録を除く全文を自書すること、②日付の記載があること、③署名・押印があることの3点が、有効な遺言として認められる条件になっています。この事例では、末尾にAさんの苗字を〇で囲ったものの記載を持って押印といえるかが問題となります。
これまでの裁判でサインが押印として認められた判例としては、サインが本人の同一性を担保する慣行や法意識として根付いている外国人の例があるのみで、他にサインや花押等が押印として認められたことはありません。従って、Aさんの苗字を〇で囲ったものが押印として認められる可能性は極めて低いと言えます。
ただし、指印が押印として認められた例ははりますが、自筆証書遺言において争いを生じさせないためには、実印等の印鑑を使用するのが適切であるといえます。

当事例における対応

当事例においては、Cさんは、ノートの一部の記載が自筆証書遺言であるとして家庭裁判所に検認手続きをとることが考えられます。
これに対し、Bさんとしては、押印の要件を欠き遺言が無効であるとして遺言無効確認の訴えを提起することになります。
遺言無効が確定した場合は、その後、法定の相続分に応じた遺産分割協議が必要となります。

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