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相続分の放棄・譲渡とは、相続放棄との違いは?

共同相続人(※1)は、その相続分(※2)を放棄することができ、「相続分の放棄」といいます。また、共同相続人は、その相続分を譲渡することもでき、「相続分の譲渡」といいます。
相続分の放棄又は譲渡を行うと、自ら遺産分割手続から脱退することができるため、遺産の取得を望まない相続人が相続分の放棄を行い、又は、他の相続人等に相続分の譲渡を行うことで、紛争の効率的な解決を図ることができます。

※1 共同相続人
相続が発生し相続人が複数居る場合、被相続人(故人)の遺産は相続人全員による共有となり、遺産分割を経ることで共有が解消されます。この遺産分割前の共有状態にある相続人を共同相続人といいます。

※2 相続分
プラスの財産(積極財産)とマイナスの財産(消極財産)を含めた遺産全体に対する相続人の割合的な持ち分のことを相続分いいます。

相続分の放棄・譲渡とは、相続放棄との違いは?

目次

1 相続分の放棄

(1)相続分の放棄とは

共同相続人が、その相続分を放棄することを相続分の放棄といいます。

(2)相続分の放棄の効果

相続分の放棄が行われると、放棄した相続人を除いた残りの共同相続人で遺産分割が行われます。このため、放棄された相続分がどのように配分されるかは、遺産分割の協議次第になります。
相続分を放棄した相続人は、相続人としての地位を失うことなく、相続債務についての負担義務を免れません。この点については、相続分の放棄を行う者にとっては予想外の事態にであることもありますので、注意が必要です。

(3)相続分の放棄の手続き

相続分の放棄は、相続が開始してから遺産分割までの間であればいつでも可能であり、方式は問われません。もっとも、相続人同士の遺産分割協議がまとまらず、遺産分割調停・審判となった場合には、当事者の地位の喪失について手続きの明確性の観点から脱退届の提出を求められることになります。
また、不動産について法定相続分による相続登記がなされている場合、調停条項又は審判主文に遺産分割による移転登記手続きも含める場合には、相続分放棄者が登記義務者となることから、脱退せずに当事者として参加させるか、又は、脱退させた上で利害関係人として手続きに参加させる必要があります。

(4)相続放棄との違い

相続放棄した相続人は、最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
このため相続放棄の場合には、相続債務を含めたすべての財産を放棄することになり、相続債務から免れることができますが、相続分の放棄では、先に記載したように、相続人としての地位を失うことはありませんので、相続債務の債権者から請求があった場合には、これを拒むことはできません。
また相続放棄は、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所での手続きが必要になる点も異なります。

相続財産がマイナスとなる場合の対策-相続放棄について解説

2 相続分の譲渡

(1)相続分の譲渡とは

共同相続人が、その相続分を譲渡することを相続分の譲渡といいます。
譲渡する相手(譲受人)は相続人に限られず、第三者に対して譲渡することもできます。
また相続分の譲渡は、自分の相続分の全部を譲渡するだけでなく、その一部を譲渡することも可能です。

(2)相続分の放棄の効果

相続分の譲渡がなされた場合、譲受人は譲渡人が遺産の上に有する持分割合をそのまま承継取得することになり、積極財産のみならず、債務を承継することになります。この点、相続分を譲り受けた者からすれば、予想外の事態である可能性があり、注意が必要です。
なお、数次相続の事案では、一次相続において行った法定相続分の譲渡について、二次相続の際に特別受益に当たると判断され、遺留分算定の基礎となることがある点も注意が必要です。

(3)相続分の譲渡の手続き

相続分の譲渡は、遺産分割前又は遺産分割と同時に行う必要がありますが、方式は問われません。
相続分の譲受人は、遺産分割手続に参加することができます、債権者との関係では、債務引受けの問題として処理されることになります。
全ての相続分を譲渡した譲渡人は、遺産分割手続から脱退することになりますが、相続分の放棄と同様、移転登記義務を負う場合には、脱退させずに当事者として参加させるか、又は、脱退させた上で利害関係人として手続きに参加させる必要があります。
共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を取り戻すことができます(民905①)。子の手続きは、1か月以内に行う必要があります(民905②)。

3 相続分の放棄・譲渡のメリットと注意点

(1)メリット

遺産の取得を望まない共同相続人を遺産分割手続から脱退させ紛争の効率的な解決を図ることができる。

(2)注意点

① 相続分の放棄は相続開始後、遺産分割前であればいつでも可能である。相続分の譲渡は遺産分割前又は同時にされる必要がある。

② 相続分の譲渡が第三者にされた場合、他の共同相続人が取り戻し件を行使する場合、1か月以内に行使しなければならない。

共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を取り戻すことができます(民905①)。この期間は、1か月以内に行う必要があります(民905②)。

③ 譲受人は相続債務についても承継する。

遺産分割の譲渡がなされた場合には、譲受人は譲渡人が遺産の上に有する持分割合をそのまま承継することになりますので、譲渡を受けた割合的持分に相当する積極財産のみならず、債権を承継することになります。

④ 譲渡者が相続財産の移転登録義務を負う場合、遺産分割調停手続きから脱退できず形式的に当事者として残り、利害関係人として手続きに参加しなければならない場合がある。

譲渡人は、原則として、遺産分割手続からは脱退することになりますが、移転登記義務、占有移転義務を負うときは脱退できず、事実上、利害関係人として参加する必要が出てきますので、注意が必要です。

⑤ 相続分の放棄によっても相続債務を免れることができない。

相続分の放棄は、相続放棄とは異なり、相続人としての地位を失うことはなく、相続債務についての負担義務を免れることはありませんので、注意が必要です。

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