遺産分割を行う際、具体的な分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割及び共有分割の4種類があります。そのうち、「代償分割」とは、ある相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しなかった相続人に対する債務を負担させる分割方法をいいます。
代償分割は、相続人間の公平性を確保したり、相続財産、特に不動産の所有権の細分化を防ぐといった利点がある分割方法です。
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「代償分割」とは、遺産分割を行う際、ある相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しなかった相続人に対する債務(代償)を負担させる分割方法をいいます。債務の負担方法は代償金(現金)に限らず、その他の財産で支払うこともできます。
例えば、相続人が被相続人(亡くなった人)の子A、Bの二人、相続財産が土地建物(評価額3000万円)のみで、Aがこの土地建物を一人で相続することになった場合、Bの法定相続分である相続財産の1/2に相当する1500万円を現金でAがBに支払う方法が代償分割です。
代償分割は、遺産そのものを第三者に売却することなく遺産分割することができる方法であることから、遺産の換価が難しい遺産であっても各相続人の納得が得やすく、トラブルになりにくいという利点があります。
また、代償財産の課税価格の評価方法については、①代償分割の対象となった財産を現物で取得した人がほかの共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始時点における金額で評価する方法、②代償債務の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた金額で評価する方法の2つがあり、いずれか有利な方を選択することができます。
① 財産の換価が難しい場合でも各相続人の納得が得やすく、トラブルになりにくい。
② 財産を手放したり、分割や共有をしなくてもよい。
③ 課税価格の計算方法が2種類あり、有利な方を選択できる。
代償分割となった財産の課税価格の評価方法については、代償となる財産の交付を受けた者と交付した者との区分に従い、次のように課税価格を計算します。
・代償分割となった財産の交付を受けた者(代償金の支払いを受けた者)
相続又は遺贈により取得した価額と交付を受けた代償分割となった財産の価額の合計額
・代償分割となった財産を交付した者(代償金の支払いをした者)
相続又は遺贈により取得した財産の価額から交付した代償分割となった財産の価額を控除した金額
代償分割となった財産を取得した者が、他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」といいます)の額の相続開始の時における金額となります。
ただし、次に掲げる場合に該当するときは、いずれか有利な方法を選択することができます。
ア)代償分割の対象となった財産を現物で取得した人がほかの共同相続人などに対して負担した債務の額の相続開始時点における金額で評価する方法
イ)代償分割の額に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における相続税評価額が代償分割の対象となった財産の代償分割の時において通常取引されると認められる価額に占める割合を掛けて求めた金額で評価する方法
① 財産取得者には、代償金を早期弁済できるだけの資力が必要となる。
代償分割は、ある相続人にその相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりにその相続人に、相続分に満たない遺産しか取得しなかった相続人に対する債務を負担させる分割方法ですから、代償金を弁済できる資力があることが前提となります。そして、代償金の支払いは、公平の観点から即時になされることが原則となります。
② 本来の取得財産価格を超える代償金を交付した場合、受領者に超過金額分の贈与税が課せられる。
本来の取得財産価額を超えた代償金を交付すると相手方に贈与税が課せられることになるため、代償金の決定に当たっては、本来の相続財産価額を超えないように代償金の額を定めて代償分割を行うべきことに注意が必要です。
③ 代償金が払えず、取得財産を換価して代償金に充てることになった場合、取得者が一人で譲渡所得税等を負担しなければならない。
代償分割の場合、代償分割となった財産を取得した相続人には、その時点で譲渡所得税がかせられることはありません。しかし、その後に代償分割となった財産を換価することになった場合には、その時点で譲渡所得税が課せられます。その際、代償分割となった財産の取得者が一人で売却することになるため、代償分割となった財産の取得者一人に譲渡所得税が課せられることになるので、注意が必要です。
④ 財産取得者が相続後に取得財産を譲渡する場合、譲渡所得から控除できる取得費加算額が少なくなり、税費負担が大きくなる恐れがある。
代償分割となった財産を取得した相続人が、相続後に取得した代償分割となった財産を譲渡した場合には、譲渡所得税の計算上、支払った代償金を取得費として控除することができません。その結果、譲渡所得税の金額が大きくなる恐れがありますので、注意が必要です。調停では、当事者間において、不動産評価額から、あらかじめ譲渡所得税は手数料相当額を控除した残額をもって代償金を定めることがあります。
相続人同士の遺産分割協議や家庭裁判所での調停がまとまらず審判となった場合において、代償分割は、特別の事情があると認められるときに限り行うことができます。そして、「特別の事情」が認められるためには、次の4要件が必要とされています。
遺産分割協議、遺産分割調停の場合には、当事者間の合意を基礎とするために、代償金の支払いについて、分割払い又は支払い猶予を行うことも可能です。もっとも、後日に債務不履行や解除等の紛争を残さないために、できる限り早期に一括払いを行うことが望ましいです。
代償分割の場合、代償財産を取得した相続人には、その時点で譲渡取得税が課せられることはありません。
しかし、その後に代償財産を換価することになった場合には、その時点で譲渡所得税が課せられます。その際、代償財産の取得者が一人で売却することになるため、代償財産の取得者一人に譲渡所得税が課せられることになります。通常、代償分割を選択するような場合に、直ちに代償財産を売却する例は多くないと思われますが、例えば、代償金が支払えず、代償財産を換価して代償金に充てる必要が出てくる場合も想定されますので、注意が必要です。
また、代償財産の取得者が、相続後に取得した代償財産を譲渡した場合には、譲渡所得税の計算上、支払った代償金を取得費として控除することができません。その結果、譲渡所得税の金額が大きくなる恐れがありますので、注意が必要です。
なお、調停では、当事者において、不動産評価額から、あらかじめ譲渡税や手数料相当額を控除した残額をもって代償金額を定めることがありますので、代償財産の換価を考えている場合には、このような方法を検討すべきです。
本来の取得財産額を超えた代償金を交付すると、その超過金額について相手方に贈与税が課せられることになります。
そこで、代償金の決定に当たっては、本来の相続財産価額を超えないように代償金の額を定めて代償分割を行うべきとに注意が必要です。
また、生命保険金を一方の相続人が受け取るような場合、生命保険も加味した上で代償金を相続人間で合意するようなケースも想定できますが、生命保険は受取人になった相続人自己固有の財産であり、遺産ではありませんので、代償金として支払ったつもりが贈与として財産が移転したという扱いをされ、思わぬ形で贈与税が発生してしまうことがありますので、注意が必要です。
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