資産を誰かに贈与した場合には、贈与を受けた人(受贈者)に対して、贈与された資産の金額に応じて贈与税が課せられます(基礎控除額である年間110万円以下の場合は非課税)。
夫婦間については一般に贈与という認識が薄く、また、残された配偶者の生活保障を考慮して、居住用不動産等の贈与については基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できる規定が設けられています。
この特例は相続開始前3年以内の贈与であっても、相続税の課税価格に足し戻されることはないので、相続税対策として有効な対策となります。
目次
婚姻期間が20年以上である夫婦間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための資金の贈与があった場合には、最高2,000万円まで贈与税がか課せられないという制度です。
適用要件は、次の通りです。
次の掲げる書類を贈与税の申告書に添付します。
配偶者へ居住用不動産や居住用不動産取得用の金銭を贈与した場合、最高2,000万円までの贈与税の課税価格から控除を受けることができます。
その年において婚姻期間が20年以上である配偶者から、専ら居住の用に供する土地、土地の上に存する権利(借地権など)、若しくは家屋で国内にあるもの(以下「居住用不動産」といいます。)を取得した者が、その取得の日の属する年の翌年3月15日までにその居住用不動産をその者の居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みである場合においては、その年分の贈与税については、課税価格から最高2,000万円を控除することができます。
上記のほか、居住用不動産を取得するための金銭の贈与を受け、その金銭をもって居住用不動産を取得し、居住の用に供する場合も、同様の適用があります。
店舗兼住宅の持分の贈与を受けた場合、居住の用に供している部分の面積がおおむね10分の9以上であるときは、その全部を居住用不動産に該当するものとして取り扱うことができます。
また、居住用不動産の取得には、家屋の増築も含まれます。
贈与後3年以内に贈与者に相続が発生しても、この特例で控除を受けた金額分は相続税の課税価格から除外できるます。
一般に、相続又は遺贈により財産を取得した者が、相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その贈与により取得した財産の価額は贈与税の課税価格に加算されます(以下「生前贈与加算」といいます。)
ただし、贈与税の配偶者控除の規定の適用を受けた場合には、この規定により控除を受けた金額は、生前贈与加算の対象となりません。また、相続開始の年に、その相続に係る被相続人から居住用不動産の贈与を受けた配偶者についても同様の取り扱いとなります。
この特例を利用して住居を贈与することで、残された配偶者の生活基盤の安定を図ることができます。
配偶者への贈与なしに住居所有者が死亡した場合には、必ずしも住居が配偶者に相続されるとは限りませんが、生前に贈与することで、確実に住居を配偶者に引継ぐことができます。
この特例を利用するには、婚姻期間が20年以上であることが要件となりますが、その期間の判定は財産を贈与した時の現況により判断します。つまり、婚姻の届出があった日から居住用不動産又は金銭の贈与があった日までの期間で計算します。計算した婚姻期間に1年未満の端数があっても、その端数は切り上げませんので注意が必要です。例えば、婚姻期間が19年10カ月の場合には本特例の適用はないことになります。
この特例は、婚姻期間が20年以上で、かつ、同一の配偶者からの贈与は一度しか利用できないため、この制度を複数回利用できる機会は滅多にないと言えるでしょう。
通常、相続開始年分の贈与については、生前贈与加算の規定により相続税の課税価格に加算されるため、相続税のみ課税し、贈与税は非課税となります。ただし、贈与税の配偶者控除については、生前贈与加算の対象外となるため、相続開始年分の贈与については、本特例の適用を受けるために贈与税の申告が必要となります。申告をしなかった場合には、相続税の課税価格に加算されますので注意が必要です。
居住用不動産の贈与の場合、贈与税については2,000万円部分までは控除できますが、登録免許税や不動産取得税は別途課税されます。また、次の表の通り、相続より贈与での移転の方が、登録免許税・不動産取得税が多くかかりますので、注意が必要です。
登録免許税 | 不動産取得税 | |
相続の場合 | 固定資産税評価額の0.4% | 非課税 |
贈与の場合 | 固定資産税評価額の2.0% | 固定資産税評価額の3.0%(注) |
(注)令和6年3月31日までに取得した宅地については、固定資産税評価額の2分の1の価格の3.0%となります。また、耐震基準等一定の基準を満たす中古住宅の取得については、税額の軽減処置があります。
居住用不動産である土地等を贈与した場合、その土地等は相続時に小規模宅地の特例が受けられなくなり、諸費用等の負担と合わせるとかえって支払税額が増える恐れがあります。
居住用不動産である土地等を贈与により取得した場合には、その土地等は相続時において小規模宅地の特例の適用を受けられなくなります。小規模宅地の特例は、相続又は遺贈により取得した土地等が適用対象となるため、贈与により取得した土地等には適用がありません。
したがって、贈与により発生する上記(4)の諸費用の負担や、小規模宅地の不適用を加味しても、贈与税の配偶者控除を適用した方が有利か否かの判断が必要となります。
相続が発生し相続又は遺贈により財産を取得した者は、相続開始年にその相続に係る被相続人から、その生前に贈与により財産を取得していた場合には、生前贈与加算の規定により、その財産の価額は相続税の課税価格に加算し、贈与税は非課税になります。
ただし、相続開始の年において、贈与税の配偶者控除に規定する婚姻期間が20年以上である配偶者に該当する被相続人から居住用不動産の贈与を受けた場合で、過去に贈与税の配偶者控除の規定を受けていない場合には、その財産(以下、「特定贈与財産」といいます。)については、生前贈与加算の対象外になります。
この場合、贈与税の配偶者控除の適用があるものとした場合に、控除されることとなる金額に相当する部分を相続税の申告書に記載し、贈与税の申告も行います。
相続税の申告では、第14表「純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産の価額及び特定贈与財産価額の明細書」に下記の事項を記載します。
次の書類を申告書に添付します。
令和元年7月1日施行の民法改正法の下では、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該相続人は、その遺贈又は贈与について特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。
あくまで推定規定であるため、持ち戻しさせるという意思表示がなかったという事実立証がなされれば、推定が覆りますが、そのような立証がない限り贈与税の配偶者控除特例を活用する事例では、推定を受け特別受益として持ち戻しがなされないケースが増えるものと考えられます。
ただし、改正民法の適用は遺贈又は贈与したのが令和元年7月1日以降で、かつ令和元年7月1日以降に死亡した相続についてのみとなります。
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