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任意後見と一般委任の違いについて

任意後見制度は、2000年4月に施行された任意後見法により創設されました。それ以前に、自分の財産管理や身上監護を他人に委任する方法としては、民法上の委任契約を締結して、任意代理人を選任するという方法がとられていました。いわゆる財産管理委任契約などと言われる契約です。
ここでは任意後見と一般委任の違いについてみていきたいと思います。

任意後見と一般委任の違いについて

目次

1 委任契約とは

委任契約とは、ある人(委任者)が法律行為を他の人(受任者)に委託する契約で、その内容は当事者同士の合意によって定まります。
そして委任契約が終了するのは、当事者の契約解除の意思や「委任者又は受任者の死亡」などの要件が定められていますが、委任者の判断能力の低下あるいは喪失は含まれていません。
つまり、民法上の委任契約によって財産管理等を委託した場合、本人(委任者)の判断能力が低下した場合にも委任契約は終了することはないということになり、あえて任意後見制度を創設する必要はなかったようにも考えられます。

2 任意後見制度が創設された理由

任意後見制度があえて創設されたのは、一般の委任契約では、本人の判断能力が低下した後における本人の保護のための仕組みが無いためになります。

委任契約を締結した後に本人の判断能力が低下し、受任者が本人の意思を確認することができなくなったような場合に、受任者が本人の意思に関係なく権限を濫用する危険があります。
そのため、高齢により判断能力が低下した場合に特化した委任契約として特別に定められたのが任意後見契約ということになります。

3 委任契約と比較した任意後見契約の特徴

①契約の形式、手続きが決まっている

任意契約は、特に形式の定めは無く、委任者と受任者の合意があれば良く、たとえ口約束であっても契約は成立します。通常は契約締結の証拠として当事者間で契約書のが交わされるのが一般的です。

任意後見契約は、見守ってもらう本人と見守る立場の任意後見受任者(任意後見人)の間で、公証人が作成する公正証書の形式で契約することが法律で定められています。(任意後見法3条)

公証人は、主に裁判官や検事などの経歴を持った法律の専門家で、公正証書は公証人が作成する公文書で高い証明力があります。

任意後見契約に公証人が関与することにより、本人の意思による適法かつ有効な契約が締結されることを制度として確保しています。

②契約の効力発生の手続きが決まっている

一般の委任契約は、特に条件を付けなければ契約の成立とともに効力が発生し、受任者は委任者のために契約で定められたことを行う権利と義務を負います。

任意後見契約は、受任者の権限濫用を防止するために、任意後見人を監督する任意後見監督人を家庭裁判所が選任することで効力が発生します。

任意後見人の選任は、任意後見契約の成立後に本人の判断力が低下した場合に、本人や一定範囲の親族等の申立てに基づき、家庭裁判所の審判により選任されます。

③任意後見人対する監督制度がある

一般の委任契約に関与するのは委任者と受任者のみで、特に条件を付けなければ第三者が受任者の働きを監督することはありません。

任意後見契約では、選任された任意後見監督人が、任意後見人の働きを監督し、それを家庭裁判所に定期的に報告することで本人を保護する仕組みが設けられています。

4 任意後見契約か一般の委任契約か

財産管理や身辺の見守り(身上監護)を他人に委託する場合に、任意後見契約か一般の委任契約かを選択する場合のポイントは、いつから委任を開始するかという点にあります。

現時点では判断能力に問題はなく財産管理等は自分で行いたいが、将来、判断能力が低下した場合には財産管理や身上監護を他人に任せたいというような場合には任意後見契約を選択することになるでしょう。

自分の判断能力にはまだまだ自信があるが、細かい財産管理や法的な手続きは人に任せて、悠々自適に生活したいというような場合には一般の委任契約によることになります。
しかし、本人がすでに高齢であれば、将来判断力が低下した場合にも備えておきたいということも同時に考えられます。
そのような場合には、一般の委任契約と任意後見契約を同時に締結し、本人の判断能力低下前は一般の委任契約により処理し、判断能力低下後については任意後見契約により処理するということもできます。

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