終活・相続・遺言・家族信託の行政書士下山たかし事務所
事務所:045-517-8350
営業時間: 9:00~18:00(月~金)

遺言書作成後に財産を処分したときは遺言はどうなるか

遺言書作成後に対象となった財産を処分した場合、その遺言はどうなるのでしょうか。結論から言うと、処分された財産に係る部分については遺言が撤回されたとみなされます。

言書作成後に財産を処分したときは遺言はどうなるか

目次

1 財産処分による遺言の撤回

遺言者が作成した遺言を撤回する場合には、原則として遺言の方式に従って新たな遺言を作成し、以前の遺言の全部又は一部を撤回する記述をしなければなりません。そのため、遺言者が遺贈しようとした財産を生前に処分する場合には、まず前の遺言を撤回する遺言をして、前の遺言の効力を失効させた上で、生前の財産処分をすることになります。
しかし、そのような方法は煩雑であるとともに、遺言者による生前の財産処分行為があった場合には、遺言撤回の意思を推測できることから、遺言書作成後に対象財産を処分した場合には遺言を撤回したとみなされます。前の遺言の存在やその内容を忘れてしまったなど、遺言者に撤回の意思が認められない場合であっても、あらかじめ争いが生じるのを避け、遺言者の最終意思の実現を図るため、遺言の撤回があったと法的にみなされることになります。

2 財産処分によって遺言が撤回されたと法的にみなされる条件

(1)遺言者の行為であること

財産処分による遺言の撤回は、遺言者の意思の推測を主たる法的な根拠とすることから、財産処分が撤回権を有する遺言者自身によってなされたものであることが必要です。
もっとも、遺言の作成は遺言者本人にしかできませんが、財産処分については本人に処分を委ねられた任意代理人によっても有効にできることから、任意代理人によって財産処分がなされた場合であったとしても、本人の意思によって財産処分と同視して、遺言の撤回があったと認めることができます。
遺言者の意思によらない処分行為の場合には、遺言の撤回の効力が生じません。処分されることにより結果的に遺言の内容が実現できないことがありますが、それは遺言の撤回の効果によるものではありません。もっとも、個人の不法行為による場合などの場合には、受遺者は、償金請求権(損失分を請求する権利)を有することになります。

(2)生前処分その他の法律行為であること

生前処分とは、遺贈の目的である特定の権利や物についての処分行為であり、その有償・無償を問いません。また、その他の法律行為とは生前の処分行為でない法律行為や財産に関係ない一切の法律行為をいい、身分行為等もここに含まれると解されています。
身分行為が問題となった例として、生涯面倒を見てくれることを前提として養子縁組をした上、大半の不動産を遺贈するとした者が、後に受遺者(養子)に対する不信の念を強くしたため協議離縁(養子縁組をやめること)をした場合、その遺贈は取り消されたものとみなされると判断した判例があります(最判昭56.11.13)。

(3)遺言の内容と抵触する行為であること

遺言の撤回と法的にみなされるためには、遺言の内容と抵触する生前処分その他の法律行為がなされることが必要です。
ここでの抵触とは、前の遺言の効力を失わさせなければそれらの行為が有効となり得ないことをいいます。抵触するか否かは、単に形式的に決まるものでなく、遺言の解釈によりその全趣旨から解釈され、特に遺言者の意思が重視されなければなりません。
例えば、遺言者が遺言の目的物を第三者に売却したものの、その代金を受遺者に遺贈させる意思が認められる場合には、遺言の撤回とみるべきではなく、受遺者はなおその代金の遺贈を受けることができると解するべきです。

3 遺贈の目的物の破棄

遺贈の目的物を生前に処分した場合のみならず、遺言者が生前に故意によって遺贈の目的物を破棄した場合にも遺言を撤回したものとみなされます。この場合も、目的物を生前処分した場合と異ならず、遺言撤回の意思を推測できることから、遺言の撤回とみなすことにしたものです。また、財産処分による遺言の撤回の場合と同様に、遺言者に撤回の意思が認められない場合であっても、遺言者の最終意思の実現を図るため、目的物を故意に破棄するれば、遺言の撤回があったと法的にみなされます。
破棄とは、物理的に目的物を滅失、毀損する場合だけでなく、経済的価値を失わせる場合も含みます。
また、遺言の撤回とみなされるためには、遺言者によって、破棄がなされなければならず、第三者の行為による破棄の場合には、償金請求や第三者に対する損害賠償請求をすることができます。
遺言者が故意でなく過失によって目的物を破棄した場合、遺言の撤回の効力は生じませんが、結果的に目的物の遺贈を受けることができないことが多いでしょう。もっとも、破棄された目的物に対してなお遺言の効力を生じると考えることも可能であると思われます。

4 まとめ

遺言書作成後に財産処分をした場合、遺言の存在やその内容を失念していたとしても、遺言の撤回の効力を生じることになります。遺言者の気が付かないうちに遺言撤回の効力が生じて、予期していなかった財産処分の結果となる可能性があることから、財産処分をする場合には、以前に遺言書を作成したか否か、作成していたとすればその内容を十分に確認した上で財産処分をする必要があります。遺言者が予定する財産処分と遺言内容とが異なる結果となる場合には、改めて遺言書を作成し直す方が良いでしょう。

関連ブログ

遺言書とは

作成した遺言を修正、取消したい(遺言の撤回)