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身体に障害があり言葉や目、耳が不自由な人が遺言を作成する方法

言葉が不自由(口がきけない)、耳が聞こえない、目が見えないといった身体に障害を持った人は遺言書を作成することができるのでしょうか。できる場合は、どのような方式であれば可能なのでしょうか。
ここでは体に障害がある人が遺言を作成する方法について見ていきます。

身体に障害があり言葉や目、耳が不自由な人が遺言を作成する方法

目次

口がきけない、耳が聞こえない人は自筆証書遺言、公正証書遺言いずれの方式による遺言も可能です。目が見えない人は遺言の方式によって扱いが異なります。

1 口がきけない人の遺言作成

(1)自筆証書遺言の作成

口がきけない人も字を書くことができれば、自筆証書遺言を作成することは問題ありません。

(2)公正証書遺言の作成

公正証書遺言は、公証役場の公証人と呼ばれる法律の専門家が作成する遺言です。公証人が専門家の立場から記載の仕方等について確認を行うため法的に無効となるおそれが低い、公証役場に原本が保管されるために紛失のおそれがない、検認手続きが不要となるといったメリットの多い遺言です。
公正証書遺言を作成するには遺言者遺言の内容を「口授(口頭で伝えること)」することが必要とされていますが、「口がきけない人」の場合は「口授」に代えて遺言の内容を手話等の通訳人の通訳又は自書をすることで公正証書遺言を作成することができます。この場合、公証人は通訳人の通訳又は自書によったことを公正証書遺言に記載しなければなりません。
「口がきけない人」とは、身体的な言語機能障害者のみならず、聴覚障害者や老齢のために発話が困難で、公証人や証人等に発話内容の聴取が困難な場合も含みます。一時的な言語機能障害も含むと考えられます。
また、「通訳人の通訳」とは、手話通訳のみならず、読話(唇を読むこと)、点字による方法など様々な方法が可能なものと考えられます。

2 耳が聞こえない人の遺言作成

(1)自筆証書遺言の作成

耳が聞こえない人も字を書くことができれば、自筆証書遺言を作成することは問題ありません。

(2)公正証書遺言

公正証書遺言は読み聞かせ、又は「閲覧」させることで作成可能であり、耳の聞こえない人は通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて「読み聞かせ」に代えることができます。通訳による場合、公証人は通訳人の通訳によったことを公正証書遺言に記載しなければなりません。
「耳が聞こえない人」とは、身体的な聴覚機能障害者のみならず、一時的なものも含むと考えられます。また、「通訳人の通訳」とは、「1 口がきけない人の遺言作成」(2)で述べた多様な方法が考えられます。「通訳人」は、手話通訳人に限られるものではないし、何らかの資格を持った者である必要もなく、本人の意思を確実に他者に伝達する能力を有する者であれば広くこれにあたると解されています。遺言者を9年間介助した者による通訳により作成された公正証書遺言について、「通訳人の通訳による申述」があると裁判で認められた例もあります。

3 目が見えない人の遺言作成

(1)自筆証書遺言の作成

自筆証書遺言は、遺言者が、その全文(財産目録を除く)、日付及び氏名を自書しなければなりません。その趣旨は、その筆跡によって遺言者本人が作成した遺言書であると確認する点にあります。そのため、点字やパソコン等による遺言書は、遺言者本人が作成したものであっても、筆跡によって遺言者本人が作成したものか検証することができないため、無効であると考えます。
そのため、目の言えない人は、全文・日付・氏名を自書できるような場合を除いて、自筆証書遺言の作成はできないといえます。

(2)公正証書遺言の作成

公正証書遺言の作成には、遺言者が公証人の作成した遺言書の筆記の内容が正確なことを承認することが求められているため、目の見えない人は公正証書遺言ができないようにも思われますが、裁判では目の見えない人も公正証書遺言の証人になることができるとしていること、公証人は、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせており、筆記が遺言者の口授と一致しているかは目の見えない人でも検証可能であることからすると、目の見えない人でも公正証書遺言はできるものといえます。また、目の見えない人が遺言書に署名できない場合、公証人がその事由を遺言書に付記して署名に代えることができます。

4 まとめ

目の見えない人に加え、口がきけない人、耳が聞こえない人についても、公正証書遺言により遺言を作成することができます。これらの方については、できる限り公正証書遺言によることが望ましいといえます。

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